■水俣病の写真展が転機に海外での公害研究を志す

 会社員時代に、ユージン・スミスの写真展で見た水俣病の子どもの写真に衝撃を受け、公害問題に取り組もうと決心しました。会社を辞めて、大学院に入り直し、大気汚染の研究で注目されたのですが、日本の企業や研究所からは相手にされなかった。公害問題は儲からないのです。

 しかし、どうしても公害の研究をあきらめきれなかった。そこでターゲットを世界に広げて、研究成果を名刺代わりにアメリカ、ヨーロッパ、南米など、国際学会を渡り歩きました。学会発表の資料を事前に見て、めぼしい研究者が登壇するときには最前列に座り、最初に挙手して質問しました。「熱心なやつ」と目に留めてもらうもくろみもありましたが、後手に回ると前の人の質問を聞き取れず、同じことを質問してしまうかもしれないからです。そうしてハーバード大学の教授の目に留まり、ハーバードでの研究の道が開けたのです。

 アメリカではペーパーバックを読んだり、映画の登場人物になりきってセリフを発話したり、それなりに英語の勉強をしましたが、アメリカ人よりうまくはなれません。そこで、ネイティブのように話せないのなら、相手に伝わるような手立てを工夫しようと発想を変えたのです。

■工夫を重ねた講義がわかりやすいと評判に

 教壇に立ってわかったのが、話の筋さえ通っていれば、学生に伝わるということ。大切なのは論理の明快さなのです。苦手な発音は、スライドを映して補おうと1回の講義に80枚ものシートを準備しました。

 例えば「WATER」を発音する時に、スライド内の「WATER」と書かれた部分を同時に指し示す。すると学生は「これがユキオのWATERの音か」と理解してくれる。講義がわかりやすいと評判はよかったです。とくに英語を第二言語とする留学生には喜ばれました。

 日本人は「流暢に話せること=英語ができる」と、思い込みがちですが、そうではないのです。明快な論理や、言いたいことを伝えるための工夫が大事なのです。

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強い動機があれば克服できる