
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年4月10日号にはユニ・チャーム リサイクル事業推進室 シニアマネージャーの小西孝義さんが登場した。
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2022年、使用済み紙おむつのパルプを、新たな紙おむつの吸収体の一部に使用した「水平リサイクル」を世界で初めて実現した製品が発売された。
その開発者が、小西さんだ。
育児の世界に「革命」を起こした、トイレに流せる「おしりふき」の生みの親でもある。
「商品は便利なだけでなく、環境に配慮した素材でなければなりません」
入社後、最初は素材開発部隊でティッシュの研究を始めた。00年頃、日本での一般廃棄物に対する紙おむつの割合は5%前後だったが、23年には8%前後に拡大すると予想されていた。
当時、この環境問題に着目し、経営陣に紙おむつのリサイクル技術を提案した。
「使用済みの製品を原材料に使用してもう一度、同じ製品にする」。誰もチャレンジしたことのない取り組みに、大義を持ち、土日も関係なくひたすら研究室にこもった。
難問は紙おむつに使用されるパルプ、高分子吸水材(SAP)、プラスチックをきれいな状態で取り出すことだった。
しかし、リサイクルに関しては全くの素人だった。
大きなバケツに薬品と紙おむつを入れてかき回し、手探りで実験する日々。時には、「リサイクルした紙おむつなんて、誰が使うのか?」と陰口を叩かれることもあった。そんな声が聞こえても、くじけることはなかった。
「社会貢献と環境負荷低減を両立することは、私の夢だったんです」
研究が成功するには、汚れや臭い、菌を完全に除去し清潔で安全であること。そして、それらを除去する際に使用した化学物質が残留しないことだった。検証を重ねるために大学教授の元を訪れて、知見を増やすなどの努力もした。
研究を開始して5年、数十種類失敗し、いよいよ行き詰まりかと思っていた先に出合ったのが、浄水場でも生かされているオゾン処理技術だった。
そこからさらに5年の歳月をかけ、紙おむつ処理技術の開発に成功した。処理前は1グラムあたり1億以上の菌があったが、処理後は菌が一切検出されず、さらには元の素材より白さが際立つほどの成果を上げた。
「いくら失敗しても、それは全て成功に向けての“準備”なんです」。次の環境問題解決に向けて動き出している。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2023年4月10日号