
「いつもと違う」と感じたら
「正直、一般の方が緊急性があるかを判断するのは困難。本人あるいはご家族などが『いつもと違う』と感じたら、ためらわずに救急車を呼んでほしい。『夜だから』『近所迷惑だから』と救急車を呼ぶのをぎりぎりまで我慢して、病院を受診した時にはかなり病状が進行していた、というケースがよくあるのです」
こう話すのは、神戸百年記念病院総合診療科の高田史門部長(救急総合診療科)だ。
冒頭のケースでいえば、血を吐いた場合、気管や肺など呼吸器からの出血(喀血と呼ぶ)の可能性もあれば、食道や胃、十二指腸といった消化管からの出血の可能性もある。見かけの出血が少量でも、時間をかけてじわじわ出血し、緊急の治療が必要なこともある。健康な人や若い人では問題なくとも、持病がある高齢者では状況が変わってくる。
男性のように抗血栓薬を飲んでいる高齢者の場合、ふらついて転倒した際、一見軽症であっても、急速に意識障害が進行し、重篤な後遺症が残ったり命を落としたりしかねない「talk&deteriorate」になりやすいことがわかっている。
「ただならぬ状態だと焦り、救急車を呼んだ。検査の結果、重篤な症状ではなかった。もしそうなっても『大事に至らず良かったですね』となりますし、それが適正利用から外れるとは思いません」(高田部長)
速やかに要請すべき症状とは
愛媛大学大学院医学系研究科脳神経内科・老年医学講座の伊賀瀬道也教授によると、速やかな救急要請が望ましいケースはいくつかあるという。
「代表的なものでは、心筋梗塞や不整脈、急性心不全、脳卒中です。いかに速やかに治療に結びつくかが生存率や後遺症の有無に大きく影響します」(伊賀瀬教授)
たとえ救急車を呼んでも、到着まである程度の時間はかかる。
「搬送されてからも検査をする必要性があるので、治療に至るまで、時間の余裕があるわけでは決してない。ましてや様子見をしていたら、助かる命も助からないかもしれません」
では、救急搬送をためらうべきではないのは、どんな症状だろうか。