注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年6月24日号より。
【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん
* * *
藤井聡太棋聖に山崎隆之八段が挑戦するヒューリック杯棋聖戦五番勝負が開幕した。第1局は6月6日におこなわれ、90手で藤井が勝利。防衛、八冠堅持に向けて、幸先のよいスタートを切った。
藤井にとっては、24回目のタイトル戦。挑んできた山崎は、人気の高い棋士の一人だ。独特の感性で序盤から独創的な指し回しを見せる棋風は、コンピュータ将棋(AI)による事前研究全盛の現代にあって、異彩を放っている。多くの棋士や関係者は畏敬の念をこめ、山崎を「天才」と呼ぶ。43歳となった山崎が15年ぶりにタイトル挑戦を果たしたこと自体、すでに快挙だ。さらなる活躍を熱望するファンはまだ、山崎のタイトル獲得をあきらめていない。
第1局で先手番を得た山崎は、得意の相掛かりを選ぶ。そこで7筋の歩を突き越したのが、早くも個性発揮の大胆な構想だった。こうした順を対局中のひらめきで指せるのが、他者に真似できない山崎の魅力である。
「私の方を持ちたいという人はいないんだろうなと思いながら指していました」(山崎)
藤井は細心の注意をはらって序盤戦を進めていく。
「どういう駒組みがいいか、一手一手、手探りという感じで考えていました」(藤井)
藤井は自玉の上部、3筋から動いていった。これが非凡な着想。以下は藤井がポイントを重ねていく。対して山崎は、不退転の勝負に出た。
「藤井棋聖相手なので、踏み込まなければいけないのかなと思って」(山崎)
結果的には山崎に見落としがあり、藤井が着実に優位を広げていく。かくして第1局は藤井の完勝に終わった。
17歳で棋聖位を獲得した藤井はもし今期防衛を果たすと5連覇を達成。「永世棋聖」の条件をクリアする。21歳か22歳での永世称号資格取得はもちろん、史上最年少記録だ。(ライター・松本博文)
※AERA 2024年6月24日号