中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)/1952年生まれ。東京大学名誉教授、シカゴ大学名誉教授。国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所理事長。遺伝・ゲノム医学研究の第一人者(写真:本人提供)
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 今年4月から「医師の働き方改革」が始まり、各医療機関で労働時間を減らすための取り組みが行われている。だが、それだけでは不十分だという。ゲノム研究の第一人者・中村祐輔医師が語る。AERA 2024年6月17日号から。

【衝撃のデータ】医師は週に何時間働いている? 働き方改革へのホンネは?

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AERA 2024年6月17日号「医師676人のリアル」特集より
AERA 2024年6月17日号「医師676人のリアル」特集より

 若手のころ、年間200日ほど救急の当直をしていました。重症患者もトラブルも多くシビアな環境でした。けれども、「鉄は熱いうちに打て」の言葉通り、若い時期に経験を積み技術を磨くことは非常に大切だったと考えています。

 ただし、私の経験が現代にそのまま当てはまるとは思いません。過重労働が問題になり、当時と比べ、患者への説明も記録も業務が圧倒的に増えています。今の働き方改革では、仕事量を減らす工夫をせず、働く時間だけを減らす指示が出ていて、「働きがいのある改革」になっているか、甚だ疑問です。「ワーク・ライフ・バランス」は個人が決めればいいこと。集中して仕事をしたい人も、病気を解き明かす研究をしたい人もいる。どう能力を高めるか、本来は多くの選択肢があるはずです。

 医師は人の命を預かる職業です。経験の多さは何物にも代えがたく、知識の有無が人命を左右します。医師の使命は、患者にベストを尽くすこと。治らない病気なら治す方法を考えるのが医学研究の原点であり、チャレンジ精神があってこそ、医学は進歩する。限られた時間内で標準治療だけを提供する、という考えには賛同できません。

 アメリカと比べ、日本の医師はよく働いていると思います。アメリカではカルテを筆記するスタッフを始め、サポート部門が多数あります。

 長時間労働がミスを誘発するのは間違いありません。けれども、労働時間が短くなっても時間に追われて働けば、ミスが起こるでしょう。研鑽を積む時間を確保するためにも、一定の勤務時間に心の余裕を持って仕事ができるシステムが必要だと思います。

AERA 2024年6月17日号「医師676人のリアル」特集より

※AERA 2024年6月17日号

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