JRが発足して37年。国鉄時代につくられた国鉄型車両は次々と姿を消す。そんな中、今も現役で活躍する国鉄型車両が、多くの人の心をつかんでいる。AERA 2024年6月17日号より。
* * *
5月上旬、晴れ。キハ40形は、青く晴れわたった空の下をコトコト走る。
「ゆっくり流れる風景がいいですよね」
都内から来たという女性(30)はそう言うと、車窓に目をやった。
千葉県の房総半島を走る「小湊鉄道」。五井(市原市)と上総中野(大多喜町)を結ぶ、39.1キロの全線が単線非電化の私鉄ローカル線だ。1925(大正14)年、南房総にある日蓮宗の大本山・誕生寺(千葉県鴨川市)への参拝客を輸送する目的で敷かれた。沿線はのどかな里山の風景が広がり、そこを走るのが、ちょっと古いキハ40形。半世紀近くも前の国鉄時代に製造された、国鉄型車両だ。
なぜかノスタルジー
このキハ40形、デビューしたのは国鉄時代の1977年。以来、82年まで全国で888両が製造された。北海道から九州まで全国津々浦々、非電化区間を中心に走り、ローカル線の「顔」だった。しかし、今では、東日本地域の定期列車で走るのは、北海道を除いて小湊鉄道だけ。同鉄道には、21年までに、JR東日本から5両が譲渡された。ちなみに、キハのキは「気動車(ディーゼルカー)」、ハは「普通車」の意味だ。
この日、キハ40形は女性や若者、家族連れなどで座席はほぼ埋まった。先の女性はSNSで小湊鉄道とキハ40形のことを知り、自然の中でリフレッシュしたいと思い、朝5時に起きて家を出たという。
「なぜかノスタルジーを感じます」
1987年、国鉄は解体され、新たにJRが発足した。以来、37年。国鉄時代につくられた車両は「国鉄型」と呼ばれるが、80年代以降、車両の老朽化や非電化区間の電化によって次々と姿を消し、多くが「鬼籍」に入った。
今年も、JR岡山駅(岡山市)と出雲市駅(島根県出雲市)を結ぶJR西日本の特急「やくも」の381系が、新型車両273系が導入されるのに伴い、6月をもって姿を消す。381系は40年以上前に製造された国鉄型車両で、JRで定期運行する全国唯一の特急電車だった。