東京五輪で銀メダルを獲得してから3年。ハーバード大学院に進学し、最強のメンタルも手に入れた。五十嵐カノアさんがパリ五輪で目指すサーフィンとは。AERA 2024年6月10日号より。
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南太平洋のフランス領ポリネシアの島、タヒチ。パリから1万5700キロも離れた地球の裏側で、パリ五輪のサーフィンは行われる。なぜタヒチが選ばれたのか。それは世界最恐かつ、最も美しい波の聖地ゆえだ。
「子どもの頃から、タヒチといえばチューブ。一番好きな技を決められる、楽しみな場所です」
波のトンネルの中を突き進んでいくチューブはサーフィンの醍醐味。その美技で、快進撃を見せてきた。
日本のお菓子が好き
5月上旬、五輪代表が決定したチームジャパンはタヒチ合宿を行った。といっても、幼い頃からタヒチで練習を重ねてきた五十嵐にとっては、練習よりも重要なものがあった。
「五輪前だからといって特別な練習をするわけではありません。準備はもうできていますから。タヒチの空気をただ感じて、自然に過ごしました」
焦りや気負いは一切ない。五輪期間に過ごすのと同じ家に滞在し、サーフィン道具や食料などを持ち込んだ。
「僕の部屋からは海が見えて、夜でも波が大きいときは波の音が聞こえ、小さいときは静かな空気に包まれる。海と繋がっている感じのする場所です。サーフボードも置いて、冷蔵庫には水とレッドブル、あと日本で買ってきたカップヌードルや甘いもの。日本のお菓子は好きで、ちょっと暇な時につまんだりするとリラックスできます。自分の家と同じものが置いてあることで、7月の五輪で戻ってくるときに『ホーム!』と感じられることが、とても大切です」
五輪で勝つための準備
五輪が近づくにつれて感じるのは、プレッシャーではなく、ワクワク感だ。
「東京五輪を経験して分かったのは、どんな大きな試合で、期待を背負っていても、準備ができていれば『早く良いサーフィンを見せたい』と、プレッシャーは楽しみに変わるということ。準備ができていないと『あと何をすればいいかな』と、ネガティブな考えになります。今は準備ができているので、タヒチの波を見るだけで、明日にでも五輪を戦いたい気持ちです」