感想戦で第5局を振り返る藤井聡太名人(左)と豊島将之九段=2024年5月27日、北海道紋別市
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年6月10日号より。

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 圧巻の防衛劇だった。

 藤井聡太名人に豊島将之九段が挑む名人戦七番勝負第5局は5月26・27日、北海道紋別市でおこなわれ、99手で藤井名人が勝利。4勝1敗で初防衛、2連覇を達成した。

「豊島九段とはこれまでにも何度もタイトル戦で対戦していますけれども、今回の名人戦、今までと序盤の展開から大きく違って。本当に序盤から構想力が問われる将棋が続いたのかなと感じています」

 藤井がそう述べた通り、決して楽なシリーズではなかった。豊島は毎局、工夫を凝らした意欲的な序盤作戦で臨んだ。藤井がピンチに追い込まれた場面も何度も見られた。

 第5局では、豊島は四間飛車を採用。名人戦の舞台で振り飛車が指されたのは、13年ぶりのことだった。藤井は居飛車穴に組んだあと、的確に攻めをつなげ、リードを広げていく。終わってみれば最後は藤井完勝。八冠を堅持し、自身が持つタイトル戦の最多連覇記録も22に伸ばした。

「シリーズの内容としてはいろいろ反省点もあったかなと思うんですけど。なんとか防衛という結果を出せたことはよかったと思います」

 いつもの通り、藤井はそう謙虚に語った。

 名人位は江戸時代から続く最高峰の称号だ。400年以上の歴史において、永世名人はわずかに19人しかいない。現代では名人戦を5期制覇すると、その資格を得る。19世名人資格者・羽生善治九段に続く、20世名人は誰なのか。現状では、藤井が最有力候補といってよさそうだ。

 藤井はこの先も長く第一人者であり続けるだろう。しかし八冠制覇が続くかはわからない。伊藤匠七段の挑戦を受けている叡王戦五番勝負では1勝2敗で初めてカド番に追い込まれた。絶対王者藤井が初めてタイトルを失うことになれば、将棋界は次のステージを迎えたともいえそうだ。(ライター・松本博文)

AERA 2024年6月10日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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