ライブ中には、吉井の病気にまつわる生々しいドキュメント映像が映される場面も。「完璧な声じゃないけど、少しずつ治っていくから。何の確証もないまま東京ドームやっちゃって申し訳ない。だけど、みんなの歓声があるからできると思った」という吉井のMCも心に残った。
このライブを振り返って吉井は、こんなふうに語っている。
「病気後、初のフルステージが東京ドームというのは正直プレッシャーや不安もあって。でも、ステージ袖にスタンバッた時点で“ここで怯んでもしょうがない”とスイッチが入りました。(ライブ中に)どんどん声がかすれて、どこまで持つかわからなかったんだけど、なんとか完走できて。課題はたくさん残りましたが、そういう切羽詰まった状況というのがロックには必要なんだなと」(吉井)
またメンバーの菊地英昭(ギター)は観客の存在の大きさに言及。
「LOVIN(吉井のニックネーム)の声のこともあったし、お客さんが見守ってくれてる感じがあって、一緒に楽しもうという気持ちがすごく伝わってきた。過去一、お客さんと一体になれたドーム公演でしたね」
“命のこと”を考えたときに新しいアートが出来る
4年ぶりのニューアルバム「Sparkle X」にも、苦難を乗り越える過程のなかで生まれた表現がリアルに反映されている。まず印象的なのは、オーソドックスなロックに回帰した音楽性だ。
「ちょっと古くさいですよね(笑)。2000年代に入ってから(ロック音楽に)いろんな要素がミクスチャーされて変化してきて。我々もチャレンジしたこともありましたけど、今回はラップの要素とかは一切ないし、ロックの原点に戻った気がします。声が(思うように)出せないなかで作っていたので、ベタなロックンロールに縋(すが)った部分もありました。あとはメンバーの演奏で華やかにしてもらおうと」(吉井)
歌詞の表現にも変化が見られる。たとえば〈人生の7割は予告編で/残りの命 数えた時に本編が始まる〉(「ホテルニュートリノ」)という一節。このフレーズの背景にあるのは、大きな病気を経験し、改めてバンド活動に向き合っている吉井自身の心情だろう。