我が子を「かわいいと思えない」
有田さん自身、映画の制作を通して、自然妊娠がいかに尊いか、そもそも出産自体が当たり前ではない現実を思い知った。そして、「言葉にものすごく敏感になった」とも。
映画の試写をした際、「子どもが欲しかったのなら、出生前診断は知っておくべき」「障害児でも受け入れろ」「中絶はあり得ない」といった感想も寄せられたという。
「でもそれは、あなたの尺度ですよね」と有田さんは言う。
「『あり得ない』って他人に言われてしまったら、当事者たちは、本当の気持ちを声に出せなくなってしまいます」
映画の中で、障害のある我が子を「かわいいと思えない」と主人公が本音を吐露する場面がある。
「我が子を愛さないといけない、現実を受け入れるべきなど、『べき』を押しつけるのではなく、『私はこう思う』だけで、いいと思うんです」
タイトルに読点を付けたことについては、「言い切りたくなかったので」と有田さん。
「映画の主人公たちが出した答えを正解として提示したいわけではありません。そして、主人公たちのその後については、鑑賞した皆さんに想像してもらえたらと思っています」
舞台と妊活の両立の難しさ
有田さん自身、妊娠と出産の知識を得たことで、妊活に本気で取り組むようになったそう。映画制作時は32歳の未婚だったが、映画の監修医の洞下由記さんに相談をして、保有する卵子数などを検査した。2022年に結婚後は、すぐに夫婦で病院へ行き、カウンセリングを受けた。
仕事が好きな有田さんにとって、ロングスパンの舞台と妊活の両立は、簡単ではない。
「つい先日、合格した舞台があったのですが、妊活中であることを伝えると演出の方が『今は妊活を優先したほうがいい。絶対またあなたと一緒にお芝居したいと思っているから』と気遣いをいただき、辞退しました。それがベストと分かりながらも悔しくて、夜中にひとりで走ったほどです」
夫は妊活に協力的であり、有田さんの意思を尊重する人だというが、「最終的に決めるのは自分」と有田さんは言う。
「仕事はしたいし、子どもも欲しい。自分の年齢と限られた時間の中で気持ちに折り合いをつけながら、『今しかできないこと』に夫婦で取り組んでいきたいです」
映画でも、現実の有田さんと似た立場の女性が登場する。
「なかなか人に話せない本音を代弁してくれる点が、映画の良さでもあります。この作品を通して、カタルシスを感じてもらえたら」
女性監督の、女性のための映画と思われやすいが、男性、そして、中高生にも見てほしいと有田さんは希望を口にする。
「何も調べずに見てもらって大丈夫です! ふとした時に映画のワンシーンが思い浮かぶことってありますよね。そういう映画になったら良いなと思います」
(フリーランス記者 小野ヒデコ)
※AERAオンライン限定記事