友人からの「普通でよかったのに」の言葉。出生前診断でおなかの子どもに障害があると分かった友人の実話を元に、映画を撮った有田あんさん。映画制作を通じて、有田さん自身にも訪れた変化を聞いた。
【写真】「普通でよかったのに」。友人の実話が映画のベースにある
* * *
今年5月、3人目を出産した神奈川県在住の会社員女性(40)は、第3子の妊娠中、初めて出生前診断を受けた。その理由をこう打ち明ける。
「自分の年齢や親の介護などを考えた時、障害がある子どもだった場合は育てる自信がなかったから」
もっと話しやすい世の中に
出生前診断とは、妊娠中に胎児の発育や異常の有無などを調べる検査だ。検査方法は数種類あり、それぞれ精度、金額、実施可能期間が異なる。出生前診断で「陽性」となり、その後の確定的検査で染色体疾患が見つかった場合、大多数の夫婦が妊娠をあきらめているのが現状だ。
映画「渇愛の果て、」は、妊娠、出産にまつわる出来事が、妊婦とその夫、子どもがいる友人といない友人、医者や助産師など、異なる立場からの視点で描かれている。
監督、脚本、プロデュース、そして主演を務める有田あんさん(36)が映画を撮ろうと思ったきっかけは、妊娠した友人が切迫早産になりかけ、羊水検査をしたこと、そして、その検査で胎児の指が欠損している可能性があると聞いたことだったと振り返る。
「羊水検査って何だろうと思い調べていく中で、通称NIPTと呼ばれる新型出生前診断の存在を知りました。そして、その友人から、出生前診断を受けたり子どもに障害があったりした人が、SNSの公開は範囲を友人に限定にする『鍵垢』にしているケースが多かったと聞き、もっと話しやすい世の中になったら良いなと思いました」
その友人と電話で会話している時、彼女が発した一言が、有田さんの胸に刺さった。
「普通でよかったんだけどな」
特別かわいかったり、何かに長(た)けていたりと、高望みをしているわけではないのに……。
「普通」って何だろう。そのクエスチョンが、有田さんの中に芽生えた。当初、据えていたテーマは出生前診断だったが、試写会後の感想を踏まえ、「普通って、難しい」に変更し、編集し直した。
「普段よく使っている『普通』や『当たり前』といった言葉を、問い直したいと思いました」