
本著ではまずICになるまでの紆余曲折の人生をオープンに綴った。留学生活、パートナーとの別れ、フリーのロケ・コーディネーターとして日本のテレビ番組のためにアフリカを駆け巡った日々──。
「ディレクターから『民族の生活を昔ながらのものに見せたいからプラスチック製品を全部隠してもらって』と言われ、違和感を持ちつつも応じていました。当時は『西山さんだったらやってくれる』と仕事をもらえることに自分の価値があると思っていた。ハラスメントなどにも正直、感度が低かったと思います」
2020年、友人の勧めでICの存在を知り「初めて目が開いた」と笑う。ロケ・コーディネーターのスキルを生かし「爪跡を残さず、裏方であること」をモットーに、40以上の作品に関わってきた。
「インティマシー・シーンというとベッドシーンなどを想像すると思うのですが、日本には温泉もあるし、入浴シーンが多いんですよね。男性が銭湯で乱闘するシーンなどにもICが必要になるんです」
いまもあからさまに「めんどくさい」顔をされたり、アップデートされているはずの若い世代のリテラシーの低さにがっかりしたりすることもある。それでも需要の高まりに応えるべく、奔走する。
「近年は配信コンテンツの増加で性描写がより過激になっている。私は性表現がないほうがいいとは思いません。そこに意図や必要性があれば肯定する。だからこそ、だれかの犠牲のうえに作品を作ってはいけない。俳優、監督、スタッフ全員が安全に良い作品を作るために調整をします」
ノーと言う勇気やギャラ交渉の大切さなどあらゆる仕事人へのエールにもなっている。
「いま世間に『目標を持て』という空気が蔓延していて、息苦しいんじゃないかなと思うんです。私は40歳になってICという仕事に出合った。人生なにがあるかわかりません。この本で特に若い人たちに『大丈夫なんだ』って思ってもらえれば嬉しいですね」
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2024年5月20日号