日本に精子バンクを設立しよう
伊藤 2017年末に、クリオス創業者の来日記事を偶然読み、クリオスが日本進出を考えていることを知りました。このチャンスを逃してはならないと思い、クリオスの問い合わせページから英語でメールを送ったんです。メールを出して4日後に、創業者のオーレ・スコウ本人から返信が来ました。喜びで心が躍りました。
オーレからは精子提供について多くのことを教えてもらいました。1年あまりメールでのディスカッションを経て、「日本に精子バンクを設立しよう」という話になりました。履歴書、志望動機書、日本の現状と有識者の意見をまとめたプレゼンを提出し、最終的に当時の社長とオンラインで面接を行ったあと、正式に内定をもらいました。
絶対的不妊に苦しむ患者たち
――2019年2月、クリオスの日本窓口の開設と同時にディレクターになります。
伊藤 ディレクターとして、ロビー活動、PR活動と同時に患者さんや医療機関からの問い合わせの対応を始めました。クリオスに寄せられる問い合わせの7割は、同性カップルやシングル女性からの相談でした。
無精子症のため、夫と血のつながった子どもを持つことができずに苦しんでいる夫婦や、頼れる人がいなくて深い孤独を感じている人もたくさんいることがわかりました。また、ターナー症候群などのため先天的に卵子のない女性や、早発閉経により若くして卵子が大幅に減少する女性、卵子を完全に失う女性など、子どもを持つことが難しい事情を抱える女性もいます。「絶対的不妊」に苦しむ患者さんは少なくありません。
「親のエゴ」「子どもがかわいそう」と批判
―― クリオス上陸のインパクトは大きかったと私は考えています。ただ、生殖補助医療を批判する人々もいます。当時は批判も多かったのではないでしょうか。
伊藤 はい、精子提供や卵子提供がメディアで取り上げられるたびに、さまざまな批判的な意見がソーシャルメディアに流れるのを見てきました。「親のエゴ」とか、「子どもがかわいそう」とか、「養子縁組ではなぜダメなのか」とか、「そこまで子どもがほしいのなら、離婚して他のパートナーを探すべきである」とか。
けれども、「絶対的不妊」の患者にとって、精子提供、卵子提供は大きな希望の一つです。
―― クリオスをはじめ、海外の精子バンクでも、利用者はシングル女性や同性カップルが圧倒的に多いですよね。
伊藤 そうです。クリオスでは、LGBTQの妊活や子育てを支援する一般社団法人こどまっぷに協力してもらい、女性カップルと個人的な交流も重ねました。彼女たちが直面する課題を解決しようと、ロビー活動も活発にやりました。最も驚いたのは、クリオスを使って妊娠した女性カップルが、都内の医療機関から分娩拒否を受けたことです。