5月15日、日本初となる非匿名の精子バンクが、都内の医療機関「プライベートケアクリニック東京」の院内にオープンした。そこで不妊カウンセラーを務めるのが、伊藤ひろみさん(41)だ。なぜ、「非匿名」でなければならなかったのか(全3回の1回目)。
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「子どもに身元を開示できるドナー」のみ
―――非匿名の精子バンク、とはどんなものだろうか。
伊藤ひろみ 非匿名、つまり「子どもに身元を開示できるドナー」のみを募集する精子バンクです。
もともと、無精子症の夫婦や絶対的不妊を抱える人のために、日本で非匿名の精子を集めたい、と思っていました。日本の人のための精子バンクを作りたかったんです。
私自身、夫が無精子症で、デンマークの精子バンクを使って子どもを産んだ当事者でもあります。「非匿名」の精子バンクにしたのは、自分自身の経験や精子提供で生まれた人々の話を聞いて、私自身、「子どもの出自を知る権利」がどれほど重要か、痛感しているからです。
精子ドナーの条件はホームページに記載していますが、非匿名に限ってドナーを一般から募集するのは、日本では初めてです。
子どもの出自を知る権利を保障する
「非匿名の精子ドナーから提供を受け、子どもの出自を知る権利を保障する」という選択肢は欧米では普及しつつあります。それを日本に広め、親となる人が堂々と子どもにテリング(告知)できるようにすることが重要だと考えています。
――実は、伊藤さんは、少し前まで世界最大の精子バンク、クリオス・インターナショナル(本社・デンマーク/以下クリオス)の日本窓口でディレクターを務めていた。
伊藤 2016年から、自分で民間精子バンクをつくりたいと思い、日本産科婦人科学会やクリニックに手紙やメールを送り、面談を申し込んでいました。ですが、ほとんど返答がなく、門前払いの状態。ようやく会うことができても、「非医療従事者が生命倫理に関わることを勝手に始めてはいけない」とか「ビジネスとして生殖補助医療に関わってはいけない」とか「法整備を待つべきだ」とか、ネガティブな反応しかありませんでした。医師も研究者も政治家も民間精子バンクの必要性について否定的で、協力してくれる人はいませんでした。
―― 伊藤さんは、どうやってクリオスに結び付いたのだろうか。