岡田尊司『生きるのが面倒くさい人』(朝日新書)
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 安全基地をもてなかったり、機能していなかったりしているケースでは、表面にあらわれている問題や課題を改善することよりも、安全基地機能を高めることが、事態の改善につながるということは、しばしば経験することなのである。そして、回避性の問題が強まっているケースでも、同じ原理が当てはまる。

 8年間ひきこもっていた26歳の男性の場合には、もう一つ重要な取り組みを行っていた。それは、親の面接を並行して行い、親の理解を高め、共感的な対応ができるように働きかけたことである。それによって、親の受け止め方や対応が変わり、本人が主体性を取り戻すことにつながったのである。

 その男性が何度も繰り返し述べたことは、母親の存在感の大きさと、母親には逆らえず、いつも母親の判断に従ってきたということだった。その点を変えることが、是非とも必要だった。母親が本人の代わりに決定したり、あらかじめ段取りしたり、代わりにやってしまわないように助言し、母親もそれまで自分が当たり前にしてきたことが、本人の主体性をおびやかしていたことに気づいたのである。

 安全基地機能を高め、本人へのプレッシャーを取り除き、主体性を回復していくためには、親への働きかけが不可欠である。

自分で決定することの大切さ

 この男性が奇しくも語っていたように、回避に陥った状態から抜け出す上で、主体性を取り戻すということが非常に重要である。それは言い換えると、他の人ではなく自分が決めることから逃げないということだ。

 自分で決められないと、なんとなく誰かに任せたくなるものだ。誰かが代わりに決めて、代わりにやってくれたら、行動する面倒さだけでなく、決めるという面倒からも逃れられるというのが、回避性の人の思考回路だ。

 それを変えるためには、どんな小さなことでもいいので、自分で決めることを実践していくことだ。取り上げた二つのケースとも、自分で決断し、迷った末に行動を起こしたことで、突破口が開かれた。自分で決め、自分で行動するということが一つでもできると、そこから人は変わり始めるのだ。実際、自ら何とかしたい、この状況を変えたいと思ってやってくるケースは、無理やり連れて来られるケースに比べて、圧倒的に改善が早い。最初は、引っ張られて連れてこられたケースでも、自分から改善したいと思い、自分から通うようになると、本当の変化が現れ始める。それゆえ、自分で決めるということを尊重するスタンスが大事である。無理強いしても逆効果になりかねない。

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回避性の人が回復し始めた合図は?