ところが、西鉄・稲尾和久監督が抗議すると、審判団は協議して判定をフェアに覆してしまう。今度は野村監督が収まらない。「ファウルのジェスチャーがあったので、(レフトの)スミスも途中で(処理を)止めた。これを覆されては、誰を見て野球をやればいいのだ」と食ってかかった。

 放棄試合も辞さない野村監督だったが、新山滋球団社長がベンチに足を運び、「放棄試合はできません」と釘を刺して説得すると、しぶしぶ了承した。前年7月13日の阪急対ロッテで、ストライクの判定をめぐってロッテが試合放棄した結果、罰金と制裁金併せて500万円を支払わされて以来、各球団は放棄試合を回避するようになっていた。

 58分の中断を経て、4対2の2死一、二塁で試合再開となったが、この回に4点を失った野村監督は「ジャッジを覆せば、こういう事態になるのはわかりきっている。審判が黒星(ミス)と認めるなら、最初のジャッジを通すほかはなかったはずや。すべての面でバカを見たのはこっちだ」と敗戦後もボヤキが止まらなかった。

 首位攻防戦の勝敗に影響しかねない相手有利の判定に怒りを爆発させたのが、阪神・岡田彰布監督だ。

 2005年9月7日の中日戦、3対1とリードして9回裏を迎えた阪神だったが、2ゲーム差で追う2位・中日も「絶対に負けられない」と執念を見せる。アレックスが中前安打、森野将彦が左越え二塁打と連打して、無死二、三塁とした。

 そして、次打者・谷繁元信の二ゴロで三塁走者・アレックスがスタートを切る。関本健太郎がバックホームし、タイミングはアウトに思われたが、橘高淳球審の判定は「セーフ!」。

 直後、岡田監督がベンチを飛び出し、掴みかからんばかりの勢いで詰め寄った。9回表の攻撃で、関本の右前安打で本塁を突いた二塁走者・中村豊が微妙判定でアウトになり、今度はクロスプレーをセーフにされたとあって、相次ぐ不利判定に堪忍袋の緒が切れたのだ。

 止めようと間に入った平田勝男ヘッドコーチが暴力行為で退場になる一件で怒りを倍加させた岡田監督はナインを引き揚げさせ、あわや放棄試合という騒動に。その後、牧田俊洋球団社長がベンチを訪れ、「試合をやってくれ」と懸命に説得する。「放棄試合のペナルティは3億円」と言ったとも伝わる。放棄試合なら0対9で負けになり、目前の優勝を放棄するのも同然。やるしかなかった。

次のページ
岡田監督の“名将感”あふれるエピソードも