「不安なときに声をかけていただいた」
審問が終わった後のこと。三淵さんから、
「審問の立ち会いはいかがでしたか」
と尋ねられた。
「三淵さんは超有名人でおられた方でしたので、私はすごく緊張していました。なんとか、『盗まれたものの価値も大事ですが、少年の未来の価値もとても重要であると思いました。司法の役割がそこにあるのではないかと思いました』と答えたところ、三淵さんは『その通りですね』とお声がけくださり、とても嬉しかったように記憶しております」(犀川さん)
犀川さんの司法修習生時代も、まだ女性の司法試験合格者は少なく、犀川さんは実務修習のグループでただ一人の女性だった。「虎に翼」では、司法の道を目指す女性が数少ない時代で、寅子が何度も壁にぶつかる様子が描かれている。
「NHKのドラマにもありますが、裁判で判決を出すのは男性、求刑を決める検事は男性という風潮がまだまだありました。私は東京地裁、地検でも実務修習をしたのですが、とても官僚的な雰囲気でした。そして私は判事や検事に任官希望しておらず、弁護士を目指していたので、たった一人の女性でもあり、ポツンと取り残され、無視されるような場面もありました。ドラマでも女性が弁護士、司法の世界を目指すというだけで社会情勢が厳しい様子を描いていることに共感しております」
犀川さんも司法修習では、壁にぶつかるようなことが何度もあったそうだ。
三淵はそういう空気を察したのか、犀川さんの家庭裁判所での実務修習の最後の日に、
「辞めないでくださいね」
と話しかけてきたという。
「私が不安に思っている時に、三淵さんの修習を受け、声をかけていただいたことで、私はまだ女性弁護士が少ない中、勇気づけられ、長く続けることができたのではないかと思います」(犀川さん)