この春から放送が始まったNHK連続テレビ小説「虎に翼」。女性が弁護士や裁判官になる道がまだ閉ざされていた時代に、法律家を目指した猪爪寅子(伊藤沙莉)が主人公だ。寅子のモデルとなった女性法律家の思い出を、直接指導を受けたことがある女性弁護士に聞いた。
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「ドラマを見ていて、先生にご指導をいただいた思い出がよみがえってきました」
こう話すのは、弁護士の犀川千代子さん、87歳。「先生」というのは、寅子のモデルで、日本で女性として初めて弁護士となり、その後、判事、裁判所長にもなった三淵嘉子(1914~1984)のことだ。
三淵はまだ女性が弁護士になれなかった時代に明治大学専門部女子部法科に入学し、明治大学法学部に進んだ。現在の司法試験にあたる「司法科試験」に1938(昭和13)年に合格し、女性初の弁護士の一人となった。戦後は自ら志願して女性初の判事となり、女性初の家庭裁判所長にもなっている。
犀川さんは1955年に早稲田大学法学部に入学。1962年に同大学法学部卒業の女性としては初めて司法試験に合格し、弁護士の道を歩んだ。当時(1960年代前半)、日本の弁護士のうち女性は1%ほどに過ぎなかった。
三淵は名古屋地方裁判所で判事となってから、10年近く東京家庭裁判所で少年事件を手がけたが、犀川さんが三淵から指導を受けたのはその間だった。
犀川さんは1963年4月から司法修習をしたが、裁判所での実務修習の中で、東京家庭裁判所研修が2週間ほどあった。うち1週間が少年部の研修で、担当した部長判事が三淵だったという。犀川さんが振り返る。
「もちろん三淵さんが我が国初めての女性裁判官ということは知っていました。当時はまだ戦後の混乱期で、少年事件がけっこうな数、あったようです。実務修習としてかかわった事件は、少年の窃盗、暴行だったと思います。判事の三淵さんの横に座るように言われ、審問に立ち会いました。しかし、少年は頑なな様子で口を開こうとはしません。三淵さんが粘り強く、優しく語りかけていくと、少年は少しずつ話すようになり、心を開くようになりました。私は指導を受けたというより、今後司法に携わる者として、傍聴させていただき、心構え、その重要さを教えていただいたという感じでした」