「仕事を考える」のテーマゾーンの書棚の前で。左から利用推進課長の空良寛、司書の河村美紀、専門員の坂井綾子

 元の会社の同僚は、社をやめてから図書館の司書の資格をとったが、視察旅行で、リトアニアの生まれ変わった国立図書館を見学したりしている。その彼女が、金沢に行くと言ったらば、「下ちゃん、金沢行くんだったら、石川県立図書館行ったほうがいいよ」と勧めてくれた。

 フィナンシャル・タイムズに勤める凄腕の広報の女性も、なぜか、この石川県立図書館で、優雅にリモート勤務している様をフェイスブックにのせていたこともあり、はたまたNHKの金沢放送局にいる松岡忠幸アナが案内してくれるという幸運もあり、3月上旬、初めて足を運んでみたのです。

 香林坊という金沢の中心街からバスで20分ほど、高台にあるその図書館に入ると圧倒された。

 写真のように、円形のスタジアムのようにして本がこちら側を向いて陳列されている。しかも、日本の図書館の99パーセントが採用しているNDC(日本十進分類法)と呼ばれる分類で整理されているわけではないのだ。

「子どもを育てる」「仕事を考える」「生き方に学ぶ」「本の歴史を巡る」「暮らしを広げる」等々12のテーマ別にブロックがわけられ本が面陳されている。

 入り口のところでは、こんなサインがガラス窓に次々投影される。

「記念撮影はお好きな場所で」「閲覧エリアはふた付の飲み物持ち込みOK」「おしゃべりOK」「お食事は文化交流エリアで」

 図書館といえば、おしゃべりをしていると、シーッと注意され、飲食も決められたところ以外では不可、というものだとばかり思っていた私は、度肝を抜かれた。

 それまでの県立図書館から移転して兼六園の南東、金沢大学工学部跡地に2022年7月にオープンしたこの石川県立図書館の2023年度の来館者数は102万6046人。旧石川県立図書館の2015年度の来館者数は23万7153人だったから利用者は5倍に増えた。昨年一位の岡山県立図書館(2022年度で80万人弱)を抜き、日本一来館者数の多い図書館になることは確実だ。

 再生した石川県立図書館から考える「図書館というメディア」の話。二週連続でお送りする。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。2024年6月17日に新刊『がん征服』(新潮社)を発売予定。元上智大新聞学科非常勤講師。

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