システム担当の坂井が苦労したのが、テーマ別のコロシアム型の書棚に本があるとわかった時に、館内の検索機でどのように場所を表示するかだった。わかりやすく本の場所にたどり着くために、何度もプログラムを書き直した。

市民の課題を解決する図書館

 図書館の基本構想が、外部識者によって決められたのが、2017年3月。その中に、「課題解決の支援サービス」というものがあった。

 これはニューヨーク公共図書館など欧米の図書館では、ごくあたりまえに行われているサービスで、市民がかかえる課題を図書館が解決の手引きをするということだ。

 たとえばニューヨーク公共図書館では、起業したいと思う人のためにビジネスに特化した司書が相談に応じ、外部のアドバイザーにつなぐ、そのうえで起業プランを公開するという「ニューヨークスタートアップ」というプログラムを提供している。

 石川県立図書館でも、モノづくり体験スペースには3DプリンターやUV印刷機などがあり、たとえば新商品の試作品をつくることができる。あるいは、地元のオーケストラ楽団であるオーケストラ・アンサンブル金沢は、月に一度のペースで30分だけのミニコンサートを館内にある「だんだん広場」で開いている。これは無料だが、オーケストラにとっては、有料の公演によびこむ窓口に、経済的にオケを聞く余裕のない人も生のクラッシックを楽しむことができるという課題解決の意味があった。

 さて、図書館にはもうひとつの大きな機能がある。それは、利用者の相談にのり、課題の解決に導くというものだ。それには「調べものデスク」という窓口がある。

 私はここに、自分の課題をひとつもっていった。

 それは、昭和初期に、農村の青年たちに課題図書を貸し出し、3年にわたって読書学級をひらくという「読書の風」運動を石川から全国に広げていった石川県立図書館館長中田邦造のことだった。

 北國新聞は新県立図書館のオープンにあたってこの中田邦造のことを「石川から全国へ図書館活動を広げた人物として日本図書館史に刻まれる」と肯定的にとりあげたが、しかし、この「読書の風」運動は、やがて大政翼賛会の国民読書運動にとりこまれ、「思想誘導」と戦後に批判をうけることになる。

 戦後に普及したNDCというシステムは、「選書」によって為政者が選ぶのではない、利用者が主体的に選ぶということを徹底した上で到達した分類法ともいえる。

 その中田が翼賛会のことをどう思っていたか? 知りたいと、「調べものデスク」にいる司書の杉井亜希子に尋ねると、石川コレクションと呼ばれる古文書のなかから、中田自身が翼賛会について書いたメモをみつけだしてくれた。

 以下、次週掲載の次号。

AERA 2024年5月13日号