地域と食は密接な関係にある。被差別部落を取材してきた著者が差別を可視化できる食に着目したのは自然の流れだろう。
 被差別部落の食文化には現代では広く受け入れられているものも少なくない。例えば、牛の腸を脂であげた「アブラカス」は「かすうどん」の具として普及、関西を中心にかすうどん専門のチェーン店も登場している。焼き肉も在日朝鮮人が持ち込んだ説が根強いが、牛の幅広い部位が食べられるようになったのは屠牛に携わった被差別民の知恵が生かされているという。
 一方、存亡の危機に直面する食文化も多い。沖縄の離島でかつて食べられたイラブー料理やソテツ料理は現地でもほとんどお目にかかれない。食糧事情の改善もあるが、ソテツ食文化が失われつつある状況には、差別を恐れる心理が見え隠れする。
 著者は料理とは精神性が大きいと説く。焼き肉に、差別される者同士が憎しみ合いながらも、助け合う痕跡が透けて見えるように。本書を読むことで、食の見方は大きく変わる。

週刊朝日 2015年11月27日号