松井玲奈(まつい・れな)/1991年、愛知県豊橋市出身。俳優、作家。舞台、テレビドラマ、映画など幅広く活動する。著書に小説『カモフラージュ』『累々』、エッセイ『ひみつのたべもの』がある(撮影/写真映像部・東川哲也)

 エッセイ集『私だけの水槽』を上梓した俳優で作家の松井玲奈さんに、新作に込めた思い、おすすめの本について聞いた。AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より。

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 松井玲奈さんの『私だけの水槽』(朝日新聞出版)の中に収録されている「ギフト」というエッセイに、印象的な言葉がある。「自分が得た知識は誰にも取られないのよ」という祖母からのメッセージだ。

「その言葉は本当にそうだと思います。これは祖母が亡くなった話ですが、書かずにはいられなかった思いを、そのまま全部書きました。大事な人を亡くした人から、このエッセイで心の整理がつきましたと言ってもらえたときは、書いてよかったと思いました」

 聡明だったという祖母。松井さんの読書家の血は、その祖母譲りなのだろうか。

「本は母の影響が強いと思います。実家に大きな本棚があって、ジャンル関係なく本が並んでいました。それを手に取って読む習慣がありました。『ハリー・ポッター』シリーズ(静山社)を読んだことも影響がありました。本を読んだのは映画化される前ですから、映画を初めて見た時に『自分が思っていたのと違う!』って(笑)。頭の中の世界って誰にも踏み込めない、自分だけのオリジナリティーだったんだと気づけたのは大きな経験でした」

『私だけの水槽』には、ホテルミラコスタの一人ディナー、台湾旅行での食事シーンなど、食にまつわるエピソードも多い。

現場に持っていく一冊

「昔から食べものが出てくる映画や本が好きなので、影響されているのかもしれません。実際に、新しい現場に入る時に必ず持っていくのが、くどうれいんさんの『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)です。くどうさんの日常のご飯の話を読んでいると心が落ち着きます。食べたり、作ったりすることは、自分の心を整えてくれることでもあるなって思うんです。千早茜さんの『わるい食べもの』(集英社文庫)も好きです。この本は嫌いな食べものも出てきますが、自分の心の内をそのままありのままに書いても共感できるんだということを学んだ気がします」

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三島恵美子

三島恵美子

ニュース週刊誌「AERA」編集部で編集や記事執筆、書評欄などを担当。書籍の編集も多数経験。

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