一見そっけなさそうで、常にユーモアで場を和ませる。撮影中も「『太陽にほえろ!』のポーズね」と応じてくれた(撮影/植田真紗美)

 役が決まったと聞いたとき若葉は「助かった、と思った」と笑う。否定し反抗し続けた俳優という仕事を自分はまだ欲していた。そしてそれを受け入れてくれた人がいる。道はまだ残されていた。「葛城事件」の演技は高く評価され、若葉は第8回TAMA映画賞の最優秀新進男優賞を受賞する。赤堀は言う。

「撮影後に何度か酒を飲みに行ったとき、彼の出自を初めて聞きました。失礼だけど『ああ、だからあのいびつな家族の話にマッチしたのかな』と(笑)。でも普段の彼からは、エキセントリックな印象は皆無。『普通』というかむしろ『凡庸』という印象で、そこが彼の魅力だと思う」

 そんな魅力を引き出したのが今泉力哉(42)だ。「南瓜(かぼちゃ)とマヨネーズ」(監督・冨永昌敬)で若葉に目を留め、「愛がなんだ」の出演をオファーした。登場人物たちのままならない恋愛模様のなかで誰の想いの対象にもならず、片思いの矢印の一番端にいるナカハラを、若葉はこれ以上ないほどナチュラルに演じきった。今泉は言う。

「いまだに驚くんですが、あの映画で評判になったのは実はナカハラだったんです。でも僕は現場で芝居を見ているときには、気づけていなかった」

抑圧されている状況から映画で抜け出せたら

 今泉の演出法は誰に対しても「こういう風に演じて」と言わないこと。俳優の持ってきたアイデアが自分の想定を凌駕(りょうが)することがあるからだ。若葉は「愛がなんだ」で10代から否定され続けた芝居をやろうと決めていた。悲しいシーンを悲しくなく、楽しいシーンを楽しくなく演じる。真に恐怖を感じたとき人は笑ってしまったりするじゃないか。人間の感情は理屈ではなく動き、ぶれたりするものだ。それが自然なんじゃないか? そんな若葉の芝居は、当時の今泉の想像を超えていた。

「現場で僕が若葉さんの芝居を何度も修正しようとしたシーンがあったんです。終盤で片思いをやめたナカハラの写真展に、好きだった女性がふらっとやってくる場面。ナカハラの『え、なんで来たの』という芝居を、僕はもっと喜んでやってほしかった。でも若葉さんは気まずさを前面に出した芝居をした。なんで? もうちょっと喜んで?と頼んだんですが、映画を観た人の感想に『せっかく思いを断ち切ったのに彼女が来るなんて、またナカハラの地獄が繰り返されてしまう』というものが多かった。そうか若葉さんがやりたかったのはこれだったのか!と気づかされました」

 役の捉え方や提示のしかた、芝居の温度やスピードにも相性の良さを感じ、以降何度もタッグを組んでいる。人より前に出ることや売れることに固執せず、自分がおもしろいと思うことをしたいと願う姿勢にも共感していると今泉は言う。

「やりたくないことを無理してやってもいいものは残らない。創造物へのリスペクトからくるその感覚も僕らには共通していると感じます」

暮らしとモノ班 for promotion
「集中できる環境」整っていますか?子どもの勉強、テレワークにも役立つ環境づくりのコツ
次のページ