左が十和利山。写真中央付近が第3、第4の事故現場=米田一彦さん提供

「ところが、21日に1人目の犠牲者が発見され、遺体に食害があったのに、その情報は遺体を収容した鹿角市、消防団、猟友会、警察官で止まり、事態の重大性が県庁と県警には伝わらなかった」
 

 そして1人目の犠牲者に食害の痕跡があることを知り、食べられた人肉の量から米田さんが導き出した推察は、「複数のクマが関与している」ということだった。

 クマは経験のないことには慎重な行動をとるが、いったん遺体を「食べ物」と見なすようになったクマは再び人を襲う可能性が高くなる。しかも、それが複数となると、危険度はさらに増す。

 第1、第2の襲撃現場は比較的平坦な場所で、500メートルほどしか離れていない。警察や消防はヘリを投入し、現場付近をなめるように飛んでクマを探した。すると2頭のクマが目撃された。
 

犠牲者を食害したとみられる体長80センチほどのオスグマ=米田一彦さん提供

 しかし、ヘリの爆音に驚いたクマは逃げてしまった。米田さんは、ここから離れた場所で人身被害が発生するおそれがある、と予測した。

 その心配は現実のものとなった。
 

ついに4人目の犠牲者が

 第1、第2の襲撃現場から北東へ2キロほど、大きな谷を隔てた沢筋にタケノコ採りに出かけた男性が夜になっても帰ってこないと、25日警察へ通報があった。そして5日後、性別不明の遺体が見つかった。

「3人目の犠牲者の捜索は難航しました。切れ込んだ谷の急斜面に竹が密生していたので、まったく見通しがきかない。そこでクマと遭遇すれば2次被害が発生する可能性が高かった。その間、遺体は何頭ものクマに食われていた」

 さらに6月7日、第3現場から西へ500メートルほど離れた場所で女性が行方不明になった。

 10日朝、警察が捜索を開始したが、クマに吠えられて退避した。ヘリを使って威圧すると、クマは姿を消した。そのすきに遺体を発見し、収容した。遺体は性別が不明なほど広範囲に食害がみられた。

 同日午後2時ごろ、遺体の発見現場付近にいたメスグマが猟友会によって射殺された。解剖すると、胃の内容物の6割はタケノコで、4割は人肉と髪の毛だった。

「これで事件は収束した」という空気が流れた。

 しかし、死者こそ出なかったものの、その後もクマによる人身被害は続いた。
 

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