埋められた証拠
果たして射殺されたグマは、4人を殺したクマだったのか。
「死者が出るような重大な人身被害が発生した場合、加害したクマを特定して取り除き、さらなる被害を防ぐことが一番重要です。ところが、この事件ではクマの特定が行われなかった」
と、米田さんは忸怩たる思いを口にする。
被害者の遺体にはクマの体毛が付着する。それを射殺されたクマの遺伝子と照合すれば明らかになる。ところが、これだけの死者が出たにもかかわらず、遺伝子分析は行われなかった。死がいも廃棄物として埋められたという。
「北海道でクマに襲われて死者が出れば、必ず体毛を採取します。関係機関の対応は非常に不可解です。射殺したクマの死がいも埋めてしまって、絶対に掘り起こさせない」
米田さんは、射殺されたクマはすでにあった遺体を食べていただけで、「主犯」のクマはまだ捕獲されていないと推察していた。
その根拠として挙げるのが、被害者たちの頭蓋骨に見られた陥没だ。
「被害者の顔やあごが、がっぽりと取れていることはよくあるんですが、過去の事例からしても頭蓋骨が骨折するほどの攻撃は、オスであれば80キロ以上、メスだと100キロ以上なければ、これほどの打撃力は出ない。射殺されたメスグマは60キロ程度なので無理です」
駆除された「スーパーK」
クマの世界では序列がはっきりと決まっており、大きなクマほど餌場を移動しない。
米田さんは十和利山麓に通って関係者の証言を集めるとともに、クマの観察と撮影を続けた。長年、秋田県のクマをよく知っている米田さんでさえ驚くほどの生息密度だった。