フリーは196.51点で、日本男子初の連覇達成。苦しくても、出せるすべてを出し切って結果に結びつけた。その強さの源とは──。

「逆境に強いのかはわからないですけど、こういう経験もたくさんしてきました」

 土壇場で物を言ったのは、積み上げてきたキャリアだ。

「痛い中でも練習したことがあったので、逆に生きたのかな。どういうジャンプになるかは予想できていましたし、自分がどこをかばって、どういうジャンプになるかもなんとなく予想がついたので」

 宇野の経験値を知っているからこそ、ステファン・ランビエル・コーチ(38)もあれこれアドバイスはしなかったという。

「彼(宇野)くらいのキャリアがあれば、いろいろなことを知っている」

「(練習を)やり過ぎないようにしつつ、(滑りの)確認は昌磨に任せた」

 25歳の背中を押したものが、もう一つ。宇野が言う。

「近くで支えてくれる方の力があって、今がある」

 家族、スタッフらへの感謝を演技に込めた。

「もう一回やったら、絶対無理だなという演技をショート、フリーともにできたと思います。どんな内容でも、やっぱり結果というものが、僕を支えてくださった人たちへの恩返しになると思います」

 100%の状態でなくても、勝ちきる。「世界王者」の称号がよく似合う勝ち方だった。

(朝日新聞スポーツ部・藤野隆晃)

AERA 2023年4月10日号より抜粋

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