
フィギュアスケートの世界選手権が3月22~26日にさいまたスーパーアリーナで開かれ、宇野昌磨が日本男子初の連覇を果たした。公式練習中に足首を痛めるなどの「逆境」を乗り越えての優勝だった。AERA 2023年4月10日号の記事を紹介する。
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決して「完璧」ではなかった。だが、底力を見せつけるような宇野昌磨の戦いぶりだった。
今大会、前回王者は逆風の中にいた。
公式練習初日の3月20日。フリーの曲「G線上のアリア」に乗って滑り出したが、ジャンプが決まらない。冒頭から3本連続で、空中で体が開いてしまった。
「今年一、ひどいです」
練習後、約2週間前からジャンプの調子が悪かったことを明かした。
「僕が試合までにどういう調整をしていくのか、皆さんも興味本位で見ていただけたら」
逆風はやまない。ショートプログラム(SP)前日の22日には、公式練習中に4回転サルコーの着氷に失敗。右足首を痛めてしまった。
不調の上にケガ。2連覇は危機的にも映った。ただ、ピンチでも動じないのが宇野だった。
「感情を試合にぶつけるような、いつもより『さあ頑張るぞ』という気持ちで臨みました」
23日のSPでは三つのジャンプ要素すべてで加点を引き出し、104.63点とシーズンベストを更新。演技を終えると、2度拳を振り下ろした。
「最近は演技後も冷静でいましたが、うれしさがこみ上げたのかなと思います」
■追い込まれながら冷静
2日後のフリーは、さらに重圧があったに違いない。滑り始める前の段階で暫定首位に立っていたのは、総合296.03点をマークした車俊煥(韓国)。
宇野が優勝するには、フリーで191.41点以上を出す必要があった。これは、今季のグランプリ(GP)シリーズ2戦でそれぞれ記録した得点よりも、高いスコアだった。
勝負をかけたフリー。5本の4回転ジャンプのうち、完璧な成功と言えるのは2本だった。
「あと一つ失敗しても大丈夫だけど、大きなミスだと(優勝が)怪しい」
追い込まれながらも、優勝までの距離を逆算できる冷静さが宇野らしい。
「演技としては、まだまだやれたかもしれません。でも、いま何ができるかと言われたら、本当にこれ以上はできないと言い切れる」
フィニッシュポーズを決めると、思わず氷上に倒れ込んだ。