教育社会学者・本田由紀氏は『うさんくさい「啓発」の言葉』(朝日新書)のなかで、「コミュ力」という言葉は、採用面接において、担当者の好みにより応募者を選別するための道具になっていると推測している。「コミュ力」はなぜ重視されるようになったのか。実務のための能力ではなく、応募者の「人間性」を測る就活のありように、問題はないのか。本田氏が考察する。
教育や就職活動の現場で、「コミュニケーション能力(コミュ力)」「主体性」などの言葉が使われています。〝人間性〞を評価する基準として、重要な概念と見なされてきました。 「一連の語句は、特に採用面接において、担当者の好みにより応募者を選別するための道具になっている」。教育社会学者の本田由紀さんは、そう指摘します。
就活で礼賛される「コミュ力」
本田さんは「人財のような抽象度が高い〝評価〞の言葉は、職場のみならず、若者の就職活動でも盛んに用いられてきた」と話します。一例として挙げたのが、私たちにとってなじみ深い、人付き合いの巧拙を批評する概念「コミュ力」です。「コミュ力」は、とりわけ学生の新卒採用において、主要な選抜の尺度となってきました。
日本経済団体連合会(経団連)が2018年、会員企業を対象に行ったアンケート調査では、回答を寄せた597社の82・4%が採用選考にあたって「特に重視した」としています。「主体性」「チャレンジ精神」など、他の要素と比べても群を抜いて高い割合です。
コミュニケーションの質は、相手との関係性や場の雰囲気といった要素に左右されるものです。当然、表情や言葉遣いを工夫して、一定程度軌道修正できる余地もあるでしょう。とはいえ、完全な制御を可能にする「力」は想定しづらいように思われます。
にもかかわらず、どうして様々な企業が「コミュ力」に価値を見いだしてきたのでしょうか。本田さんは「ジェネラル(全方位的)な能力を持つと判断された人を雇用する、日本企業の特異な採用形態が関わっている」と指摘しました。