複雑な採用選考に役立つ指標
本田さんによると、「コミュ力」礼賛の風潮は、就活のあり方の変遷と共に強まってきたといいます。
1953年、学生の採用開始時期に関するルール「就職協定」が、バブル経済崩壊後の1997年に廃止。採用活動の早期化や長期化に拍車がかかります。
更にインターネットの普及により、大手企業を中心に、大量の応募者が殺到する状況が生じました。このため面接の回数が増えた他、多数の求人に同時並行でエントリーすることが一般的となるなど、選考プロセスが複雑化したのです。
やがて各企業では、重層的な採用過程に対応できる、より使いやすい「合否の基準」が求められるようになります。そこで存在感を強めたのが、本田さんいわく「コミュ力」でした。
そもそも日本の新卒採用では、選考上、専門性よりもポテンシャル(潜在能力)の見極めに力点が置かれてきました。企業側が実務に必要な能力や経歴を指定した上で求人情報を出す、欧米式の「ジョブ型」雇用と比べ、採用基準が明確さに欠けます。
具体的なスキルを想定しない以上、採用担当者が把握できるのは、外面から推し量れる応募者の人柄や、話しぶりといった所作にまつわる情報が中心です。就労経験がない若者たちの選考において、人間性は必然的に重要な指標となっていきました。
その傾向が特に強まったのが、2000年代。世界規模の金融危機・リーマンショックが起きるなどして、経営が悪化したことで、「厳選採用」の姿勢で学生と向き合う企業が増えたのです。面接での〝人格評価〞も一層盛んになったと、本田さんは説きます。
「採用担当者と似た青春時代を送ってきた学生が面接にやってくれば、自ずと話が盛り上がるでしょう。結果として、その学生は『コミュ力が高い』となりやすい。就活におけるコミュ力とは、担当者の好みと同義の概念だと言えます」