「カメラでお前の顔を記録した。次に姿を見たら逮捕するからな」
「どんな容疑で?」
「容疑なんて関係ない。我々には権力がある。それを使うだけだ」
隊員の所属先はイスラム革命防衛隊の傘下にある民兵組織バシジだった。彼らは鉄パイプで殴ってもびくともしそうにないヘルメットをかぶり、ゴーグルと防塵マスクをつけていた。なかには肩に銃をかけている者もいる。
国側は自分たちのような一般の人びとの言い分には耳を貸さないばかりか、力によって黙らせる。彼女は心の底から嫌な気分になった。
エリアッシは危険を冒しながらもデモに参加する理由について、前年6月にあった大統領選を挙げる。大統領選に立候補を希望する改革・穏健派の人たちが事前の審査で軒並み「失格」となった。その結果、自分たちの声を代弁するような候補者は不在だった。そんな選挙は無意味だったと彼女を含めて多くの有権者は絶望し、そして、自分たちの声を国側に伝える唯一の方法が街頭に出ることだったのである。
「自由もなく、明るい将来も見えない。失うものがなくなったいま、命をかけて変革を実現するしかないのです」
イランの多くの女性たちにとってヒジャブは単なる一枚の布ではなく、やはり抑圧の象徴なのである。
彼女は取材のあとも抗議デモに身を投じた。
デモには多くの男性も参加している。自由を勝ち取ろうとする女性たちに寄り添っているように感じられ、その姿にエリアッシは勇気づけられていた。
規則を守るのは逮捕されたくないから
治安部隊に危害を加えられる恐怖から、抗議デモに参加できない人たちも多い。そのことは、テヘランに住む30代の女性に話を聞いて分かった。
「死んだのは私だったかもしれない」
彼女もアミニと同様の容疑で逮捕され、しかも同じ警察署に連行された経験をしていたのである。