抗議デモ(エリアッシさん提供)
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 2022年9月、ヒジャブと呼ばれる布を頭部にきちんと着けず、髪の毛を適切に隠していなかった罪でイラン警察に拘束されたマフサ・アミニが亡くなった。警察官による暴行を疑った人々は大規模の抗議デモを行った。2020年4月から2023年1月まで朝日新聞テヘラン支局長を務めた飯島健太氏はデモの様子を間近に目撃した。著書『「悪の枢軸」イランの正体』」のなかで、イランに住む人々のデモに対する切実な思いを紹介している。『「悪の枢軸」イランの正体』」から一部を抜粋して解説する。

 女性、命、自由

 2022年9月13日、22歳のマフサ・アミニが警察に逮捕された。彼女は法律に違反してヒジャブと呼ばれる布を頭部に着けず、髪の毛を隠していなかったと疑われたのだ。彼女は逮捕されたあとに連れて行かれた警察署で急に意識を失って倒れたとされる。そして、3日後の9月16日に搬送先の病院で死亡したというのだ。

 アミニは警察官に暴行され、死亡したのではないか—。こうした疑念が一般の人びとの間に浮かび、翌17日にアミニの故郷である北西部クルディスタン州で営まれた葬儀は、参列者による抗議デモに一変した。

 抑圧の象徴・ヒジャブ

 アミニの死から5日後だった。40歳の女性マフザド・エリアッシは、地元である首都テヘランの中心部で開かれた抗議デモに加わった。そこへ、緑色の制服を着た警察官が近寄ってきて、2〜3メートルの距離で止まった。そしていきなり、銃口を向けられた。

 パーン、パーン—。

 勢いよく飛んできた弾は自分の体をかすめるようにして通り過ぎ 、背後に止まっていた車に当たったあと、白煙が立ち上った。催涙弾だ。煙は一瞬にして周辺に広がり、涙と咳が止まらなくなった。まわりの人たちとともに逃げ惑っているところへ、治安部隊の隊員が声をかけてきた。

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「容疑なんて関係ない。我々には権力がある」