それは、20代だった2007年夏のことだ。知人の買い物に付き添っていくつかのアクセサリー店をまわったあと、午後9時になろうとしていた時である。見知らぬ女性2人が近づいてきてこう告げてきた。

 「あなた、服が短すぎる」

 2人は風紀警察の警察官だった。彼女はこの時、上着を羽織っていたが、裾の長さは腰までだった。「もっと裾の長い服が近くに停めた車の中にあるので、すぐに取ってきます」という彼女の訴えは聞き入れられず、捜査車両のワゴン車に押し込められた。

 そして連れて行かれたのは、アミニと同じボザラ警察署だったのだ。署内に入るとベンチが並ぶ待合のホールになっていて、ほかの女性20人余りとそこに座るよう命じられた。まもなくすると、警察官に1枚の書面を突き付けられた。

 「今後は、適切にヒジャブや上着を身につけます」

 誓約書だ。名前や年齢、住所を書かされた。拘束から1時間半後、やっと帰宅を許されてエントランスに向かった。外に出る直前の所で、50代くらいの女性が泣いていた。拘束されて不安なのだろう、その女性の気持ちがよく分かる彼女は「大丈夫ですよ、私のように帰れますよ」と声をかけると、警察署長の男性がいきなり大声で怒鳴ってきたのだ。

 「何を勝手に話しているんだ。ホール内に戻れ!」

 何も説明がないまま、外で待たせていた知人までもが拘束されることになった。さらに、彼女の母親も署に呼び出され、娘を引き取るよう指示された。迎えに来た母のおかげで今度こそ解放された帰り際である。署長が捨て台詞のように言った。

 「ルールが守れないんだったら、この国から出ていくしかないな」

 この一言は彼女の脳裏に染みつき、それ以来、街中を巡回す

 二度と逮捕されたくない一心で、ヒジャブやロングコートをそれまで以上に規則どおり、きっちりと身につける風紀警察のワゴン車や警察官の姿が目に入るたびに心臓の鼓動が早まり、息苦しさを覚えるようになった。るようにしている。ただ、彼女は信心深くない。ヒジャブで髪の毛を覆うのは法律だから仕方ないと思っている。それでも、国家が力ずくで従わせるのにはどうしても反感を持つ。

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膨らむ違和感