昨年9月、第80回ヴェネチア国際映画祭のレッドカーペットに登場した濱口監督。海外にも濱口作品のファンは多い(写真:(c)KAZUKO WAKAYAMA)
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「ドライブ・マイ・カー」から3年。新作「悪は存在しない」(26日公開)で世界三大映画祭制覇の偉業を成し遂げた濱口竜介監督が日本映画のこれからを語った。AERA 2024年4月22日号より。

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──海外での評価も高い濱口作品。特に21年の「ドライブ・マイ・カー」の米アカデミー賞受賞は、アジアや日本の映画現場に大きな扉を開いたといえる。翌年にはエブエブ(「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」)旋風が巻き起こり、アジア系が作品賞、監督賞ほか助演男優賞、主演女優賞など7冠を獲得。そして今年は日本作品「君たちはどう生きるか」「ゴジラ-1.0」の受賞が話題になった。が、いっぽうで授賞式のステージにあがった白人俳優がアジア系俳優を無視したように見える映像が世界中に流れ、ニュースになった。

扉開いた「パラサイト」

自然と共存しながら穏やかに暮らす花(西川玲)たちだったが──。「悪は存在しない」は26日から全国順次公開(c) 2023 NEOPA / Fictive

濱口竜介(以下、濱口):自分としては「ドライブ~」の前年、20年のポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」の作品賞受賞が一番の扉を開いたという認識です。ただ結局、賞は水ものです。自分も賞の審査員をやった経験から受賞には偶然の働きが大きいことも理解しています。あまり大きく捉えすぎず、その時々の流れの節目として捉えるくらいでよいのではないでしょうか。

 今年のアカデミー賞についてはニュースで「そういうことがあったらしい」と知っているレベルです。完全に自分の体験としてのみ言うと、多くの方が考える以上に受賞の瞬間は本当にまわりが見えなくなります。世界中が見てると思えば、そこに行く通路ぐらいしか見えない。僕もスピーチのときは「ドライブ・マイ・カー」チームしか見えていない状態でした。

 そこで視界を広げられるのがプロフェッショナルなのかもしれませんが、幾度目かのノミネートでようやく受賞した瞬間に親しい人しか見えなくなって、それを頼りにすることはあるだろうとは想像しました。けれど、あったことの批判すべき点は批判し、正すべきです。

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