濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)/1978年、神奈川県生まれ。「ドライブ・マイ・カー」「偶然と想像」(2021年)を経て本作で第80回ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞(写真:(c)KAZUKO WAKAYAMA)

歴史を踏まえた新しさ

──「ドライブ・マイ・カー」は第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞など4冠を、「偶然と想像」(21年)では第71回ベルリン国際映画祭銀賞(審査員グランプリ)を獲得。そして本作で第80回ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞し、三大映画祭のグランドスラムを果たした。濱口作品がこれほど世界の琴線に触れる理由はどこにあるのだろうか。

濱口:基本はクラシックを見てきたことだと思います。日本映画の黄金時代はいまから70年近く前、小津安二郎、黒澤明、溝口健二の時代です。そうした傑作を撮る条件からは離れてしまったいまの日本の映画界の状況で、じゃあ一体何ができるのか。僕もいち映画ファンとして世界中のクラシック作品に感動してきました。そして三大映画祭のプログラマーとも会うと「あの映画は自分も好きだ」みたいな話になるんですよね。結局、みんな相当に映画を観てきて、映画史の文脈の中でいまの作品を捉える視点を持っています。もちろん全く違う文脈から新たな作品が出てくる期待も持っているけれど、一方で映画の歴史を踏まえた新しさがあってほしいという思いもある。

 海外の日本映画に対する評価は歴史的にものすごく高いです。そしてその期待は今でも続いている。どうすれば映画祭に行けるのかとよく聞かれますが、「日本映画から何か出てこないか」という期待は常にあるはず、とお伝えしたいです。

 ただ、僕自身が自作で実現したいものは観客が映画館で「一体これ、どう感じたらいいの?」って思う瞬間なんです。それは映画ファンである自分の体験でもあるし、映画というものが自分の理解の枠組みや、世界認識を壊す瞬間でもあります。映画とは世界の見方をつくりなおす機会を提供してくれるもの。自分の作る映画もそうありたいです。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2024年4月22日号より抜粋

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