――志望者は増加していますか。
2008年をピークに応募者は減少傾向にありましたが、2021年に急増しました。これはアニメが市民権を得て以降の世代が大学生になったことと、コロナ禍でエンタメ需要が増したことが重なったからだと思います。漫画や小説が好きな子どもは昔からたくさんいましたが、アニメは“敷居”が低くて一般層へ広がるスピードがすごい。とりわけ『鬼滅の刃』(集英社)の大ヒットの影響で幅広い世代が漫画やアニメを楽しむようになり、「鬼滅」に続くヒット作が多数生まれるようになったと思います。当社からも『東京卍リベンジャーズ』『ブルーロック』『ちいかわ』などの大ヒット作が生まれました。
かつては漫画やゲームが好きな人でも、ある時期がくると生活環境の変化などを理由にそれらを「卒業」することが多かったと思います。一方いまはスマホなどを使っていつまでもあらゆるコンテンツを身近に置くことができ、「卒業」しなくてもよくなった。極端な表現かもしれませんが、ある意味、日本人が「総オタク化」しているのかもしれません。
とはいえ、2025年度の出版業界の志望者数は、2021年の急増時よりはだいぶ落ち着いています。いまは就活の情報を手軽に手に入れられるようになり、志望企業の倍率や難易度もかなり可視化されていて、非効率な就活はやらなくなっているように思います。出版社は採用数も多くなく、ESも多種多様な設問があるので、実際に応募いただくのは大変です。就活の初期段階で志望する学生は多いかもしれませんが、実態を知るにつれて離脱していくのでは、と考えています。だから私たちは、採用広報には力を入れているのです。
――どんな学生に来てほしいですか。
多様なコンテンツは多様な人材から生まれると考えているため、「求める人材像」は掲げていません。ただ、自分の興味、関心事について日ごろから考え、言語化して人に伝えようとする意識があること。そしてコンテンツは自分ひとりでは生まれず人と人との繋がりのなかから生まれてくるものなので、コミュニケーションに対してポジティブであることは大事です。
また、興味の幅が広い人にきてほしいという思いは昔から変わりません。総合出版社では自分の希望と違う部署に配属されることもよくあります。私は文芸編集志望で入社しましたが、最初に配属されたのはファッション誌でした。また、仕事内容によって人のポジティブなことにも、ネガティブなことにも向き合うことがあります。