「上司は、酒の力を借りたり、オフタイムにコミュニケーションをとることで本音を語り合うという考えは捨てた方がいい。いまの若い部下たちはプライベートに上司が関わってくるのを嫌がるようになっている。飲みに誘うと、『残業つきますか』『業務命令ですか』と返ってくるという話も実際に聞きます。ただ部下も、職場のコミュニケーションが足りないと、それはそれで困っている面もある」
そもそも雑談が難しい
そこで大事になってくるのが、「職場での短い接触時間で、濃密なコミュニケーションをとること」だと言う。
「職場で、きちんと時間をとって『1オン1ミーティング』をやる。昼休みに軽い雑談をする。1オン1では上司が問いかけて相手から答えを引き出す『コーチング』のスキルや、雑談をはずませるためのオープン質問、傾聴といったスキルが必要になる。上司に求められる評価の差は、今後はそのあたりでついてくると思います」
上司から仕掛けるコミュニケーション。まさにそこで迷い、悩んでいるという現場の声がある。東京都の会社役員の女性(60)は、「部下とのコミュニケーションに自信がない。そもそも雑談が難しい」と打ち明ける。
「私にとっては30代、40代の社員でもジェネレーションギャップを感じます。20、30年前であれば共通のテレビ番組の話題もあったけど、いまはテレビを見ない人も多い。共有できる話題が仕事のことしかなく、何をきっかけに雑談を始めればいいかが、すでに難しいんです」
何げない雑談もしにくいし、飲みに誘うのもムズすぎる。ハラスメントと言われるのではないかと部下に踏み込めない。そんな管理職受難の時代。これまで900人以上の管理職にインタビュー調査してきた健康社会学者の河合薫さん(58)は、「部下との付き合い方に『正解』はない。いまはさんざん悩んでみたら」と辛口のエールを送る。
「コミュニケーションって『永遠の課題』なんです。よく言葉のキャッチボールと言いますが、コミュニケーションを始めるのはボールを投げる方の人間だけど、そのボールの意味を決めるのは本来、受け手だからです」
上司と部下で言えば、これまでは速球やストライクから外れた球を投げて部下が捕れなくても、「捕りに行けよ」と言えた。でも、いまは部下が捕ってくれるか捕ってくれないかがよくわからない。だから「ちゃんと投げなくちゃ」と上司が不安になっているのがいまの時代だと、河合さんは言う。