性別で分けられるトイレを使うことに困難を抱える人がいる。一方、車椅子ユーザーのトイレが性別で分けられていないことにストレスを感じる当事者がいる。また、トイレが女性に対する性暴力の現場になってきた歴史的事実(現在進行形の)を考えれば、トイレは性別で分けてほしいという女性たちの切実がある。どのような公衆トイレが正解なのかは、社会の合意が必要だが、議論することすら難しい空気がある。ただわかっているのは、歌舞伎町のジェンダーレストイレの混乱が示したように、日本では女性用トイレが「エロ化」されてしまっている現実があるということだ。
台湾ではどうだったか。私が見たのは台北最大規模のオールジェンダートイレで、設計や考え方は歌舞伎町のものと似ていた。扉は全て閉まっており、入り口にどのトイレが空室かを示すランプがついている。個室の扉には便器のマークがわかりやすく描かれ、座る便器、しゃがむ便器、立つ便器、車椅子用、オムツ替えられる用、子ども用の低めの便器と種類も多い。緩やかなカーブで死角のない空間の中央には子ども用の手洗いもある。生理用品の自販機もあり、行政が女児に配る生理用品無料引き替えIDカードをかざせば無料でナプキンが出てくる。
台湾の友人に言わせれば、オールジェンダートイレはオジサンにとても評判が悪いのだという。「へぇ、なんで?」とトイレで立ち話していたら(立ち話ができるくらいに広々と、明るく、清潔なのである)、ちょうどオジサンが入ってきた。……のだが、私たちの姿(全員女性)を見たからか、「ああああああ」という気弱な感じで引き返してしまったのだった。気の毒だと思ったが、ここは「オールジェンダートイレ」である。誰でも堂々と入ればよいはずなのであるが……台湾のオジサンはオールジェンダーだと用を足しにくく、女性がいるとなおさら用を足しにくいようなのである。