唯一の日本人プロデューサーとして番組に携わった、ジャーナリストの大矢英代さん。現在、カリフォルニア州立大学助教授(撮影/穐吉洋子)

「原爆の実相」伝えたい

 大矢さんがこだわったのが、アメリカ人の多くが知らない「原爆の実相」を伝えることだ。

 今年のアカデミー賞で作品賞など7冠に輝いた映画「オッペンハイマー」は、原爆開発者の葛藤を描きながらも広島と長崎の原爆被害は描かれていない。

 キノコ雲の下で何が起きたのか──。大矢さんは監督に言った。

「本当の犠牲を見せないと、オッペンハイマーと同じです」

 こうして被爆者の証言とともに、強烈な熱線で焼けただれた遺体や皮膚がはがれ体に垂れ下がった人など、原爆の惨状を伝える映像も多く入れた。

 企画から公開まで2年。番組は世界中に配信され、大きな反響を呼んでいる。

 アシスタントとして日本国内の取材に携わった、早稲田大学社会科学部4年の古賀野々華(ののか)さんは「世界で原爆投下がどういう位置にあるのかを考える番組になっている」と話す。

「とくにアメリカでは、多くの人が広島と長崎への原爆投下で戦争が終わったと認識しています。その日本とのギャップに気がついて、次に、唯一の戦争被爆国として何ができるかを考え、原爆の悲惨さを世界中に発信していってもらえればと思います」

 大矢さんは、番組を通し「日本は広島と長崎の悲劇を教訓にできているか考えてほしい」と語る。今ウクライナやガザで戦争が続き、ロシアやイスラエルは核兵器使用の可能性をちらつかせている。本来なら、核兵器の恐ろしさを知っている日本が「やめろ」と全力で声を上げるべきだが、できているか、と。

「それどころか、アメリカの核の傘の下に隠れ、イスラエルのガザ侵攻を全面的に支援するアメリカに対して日本は何も言えていない。その矛盾に気がついて、何をすればいいか一人一人が考えるきっかけになれば」

 最終話のエピソード9は、広島の被爆者たちの核なき世界へのメッセージで終わる。大矢さんは言う。

「世界中の人に被爆者の声が届いてほしい」

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年4月15日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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