冷戦とその余波を描くドキュメンタリーがNetflixで配信中だ。伝えたいものは何か。共同プロデューサーの大矢英代さんに聞いた。AERA 2024年4月15日号より。
【写真】唯一の日本人プロデューサーとして番組に携わったジャーナリストの大矢英代さん
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ターニング・ポイントには二つの意味がある。一つは「転機」、あと一つは、その後の運命を決める「分岐点」という意味が。
「人類が核兵器を開発し、79年前に広島と長崎に原爆が落とされました。その時が歴史の分岐点となったターニング・ポイント。そこから、冷戦という恐ろしい核兵器の時代が始まりました」
Netflixで配信中のドキュメンタリー「ターニング・ポイント:核兵器と冷戦」。共同プロデューサーを務めたジャーナリストの大矢英代(はなよ)さんは、そう話す。
「骨と炭になった」
本作の監督は、ドキュメンタリー作家として知られるブライアン・ナッペンバーガー氏。世界7カ国、100人超のインタビューを収録し、語りと映像によって米国の原爆開発からロシアのウクライナ侵攻までの歴史を辿り、核兵器と冷戦がどれほど人々の人生を変え世界の歴史を動かしてきたかに迫った。
全10時間。エピソード1から9まであり、大矢さんは制作チームの中で唯一の日本人プロデューサーとして関わった。中でも思い入れがあるというエピソード1は、米国が着手した極秘原爆開発計画「マンハッタン・プロジェクト」と、広島と長崎への原爆投下が中心となる。
大矢さんはまず、被爆者の体験に焦点を当てることにした。胎児被爆を含め、広島の原爆で被爆した77歳から96歳まで、6人の男女にカメラを向けた。中でも衝撃を受けたのが、爆心地近くの平和記念公園でインタビューをした80歳の男性の言葉だった。
取材クルーに「私たちが立っているこの場所にあった遺体は、どうなったのですか?」と聞かれた男性は、一瞬表情が止まり「収集できるわけがない」と言い、絞り出すように続けた。
「骨と炭(すみ)になったんです」