ジョル来 日 作 品 ジョ・デ・キリコ《バラ色の塔のあるイタリア広場》/1934年頃 油彩/カンヴァス 46.5×55cm/トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館蔵(L.F.コレクションより長期貸与)/イタリア/(c)Archivio Fotografico e M ediateca Mart (c)Giorgio de Chirico, by SIAE 2024
【来日作品】ジョルジョ・デ・キリコ《バラ色の塔のあるイタリア広場》/1934年頃 油彩/カンヴァス 46.5×55cm/トレント・エ・ロヴェレート近現代美術館蔵(L.F.コレクションより長期貸与)/イタリア/(c)Archivio Fotografico e Mediateca Mart (c)Giorgio de Chirico, by SIAE 2024

――確かに、デ・キリコの絵からは、人間やものが画面のどこかに隠されている感じを受けますね。

 離人感を体験すると、日常の背後や奥に、何か真実が隠されているのではないかという感覚を伴うことが多いと考えられます。少し宗教体験や悟りの境地に近いのかもしれない。それを絵画で表現するならば、向こうに何かがちらっと見えるような、思わせぶりな絵になってくると思います。どういう意味かわからないけれど、ここに何かあるのかもしれない、という感覚を呼び起こすような作品ですね。

――すると、デ・キリコの芸術は、彼の片頭痛も寄与していたと考えられるのでしょうか?

 確かに、デ・キリコに超現実的な風景を見せていたのは片頭痛による脳内での作用なのかもしれません。実際に彼と片頭痛に関する論文も海外では見られます。ですが、幻影を見せられた人すべてが、絵を描くわけではありません。「凄いものを体験したから描きたい」という自発的な強い動機があったからこそ、デ・キリコの芸術は成立したわけです。

――それは、いわゆる天才的な才能を持つサヴァン症候群のような人たちとはちょっと違った動機づけなのでしょうか?

 サヴァン症候群とは、発達障害と同時に、ある分野で天才的な能力を併せ持つ人のことで、それが絵の才能として現れてくることもあります。例えば、ヘリコプターで街の上空を飛んでから、眼前に見えた風景をカンヴァスの隅々までびっしりと精せ い緻ち に描いてしまうような特異な才能を発揮した事例も報告されています。普通の人にはとても退屈で続けられないことが、彼らにとっては快感なので、ずっと集中していられるわけです。ところが、デ・キリコの場合は心地よいから描いているわけではありません。雷に打たれるような現実を超える体験をしたから、それをどうにかして芸術として表現してみたい、という衝動に動かされていたと見るべきでしょうね。

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