昨年5周年を迎えたオハナキッズ通所事業。多くの医療的ケアが必要な子どもたちと家族の日々を支えている(画像の一部を加工しています)(撮影/安田一貴)

 調査は友岡さんが発案し、同事業所で看護師として働く吉備智史さんを中心に、吉備さんの大学院(東京大学大学院)時代の指導教授である上別府圭子さん(国際医療福祉大学大学院教授=家族看護学)、世田谷区に拠点のある昭和女子大学助教の八木良広さん(社会学)らが研究チームに加わった。

「家族以外の大人と過ごす機会増えた」が7割超

 アンケートの項目は、子の医療的ケアの種類や受給者証の有無と支給量、社会資源の利用状況や、主介護者の生活の質(QOL)、家族機能など多岐にわたった。世田谷区を中心とした首都圏に住む医療的ケア児の保護者60人からの回答を分析し、インタビューなどとともにまとめたのが「医療的ケア児を取り巻く実態調査と課題検証 報告書」(23年度世田谷区子ども基金助成事業)だ。

 さて、アンケートの結果から見て、医療的ケア児と家族の健康状態や生活は改善したのか。その答えを端的にいうと「一部はイエス、一部はノー」(上別府教授)ということになる。

 例えば「ケアに携わる人が増えた」「家族以外の大人と過ごす機会が増えた」の項目で「そう思う」と答えた割合が高かった一方で、「地域の人と関わる機会」や「回答者が他の家族員と過ごす時間の量」などは割合が低い結果だ。また、通所支援の利用率は高くても、頻度を見れば多くはないのが実態だった。オハナキッズでも1日の定員5人に対し契約数は40人と、需要に供給が追いついていない現状があるという。医療的ケア児を育てる家族の健康については、これまでの調査でも、睡眠時間が短いことや睡眠の質が良くないことが指摘されていた。今回の調査では連続して取れる睡眠の時間が「8時間」の人もいれば、「ゼロ」と回答した人もいた。

 看護師の吉備さんは、家族機能が充実していたり、利用できる医療・福祉サービスが多かったりするほど親のQOLが高い結果だったと分析する。

「今回の調査だけでは確定はできませんが、生活の負担が減ることや、子ども自身の社会参加が、親の健康に大きくかかわっているということが今後言えるかもしれません」

 アンケート回答者への聞き取り調査では「変わるスピードが遅すぎる」と訴える声もあった。

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