週に1度、患者の話を聞き「リクエスト食」を提供している病院がある。大阪市の淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院。本書はここに通ってまとめたノンフィクションだ。
 患者や見舞いに訪れた家族から取材した話が14話並ぶ。独白あり対談あり。「食」にまつわる記憶から、夫婦旅行や子育ての情景など多彩な個人史が浮かびあがる。余命宣告を受けたにもかかわらず、話に翳りがないのは、「リクエスト食」の効果と無縁ではないだろう。カラー写真で各話のご馳走が紹介される。目に香ばしい揚げたての天ぷら、色鮮やかな握り寿司、こんがり肥った秋刀魚……。高齢者から「歯が悪い」と聞けば、キャベツを茹で、豚肉をミンチにしたお好み焼きを出す。
 ただ、おいしい料理を提供するのではない。「一人ひとり違う人生を持った患者さんに、個別にできることを病院として提供する。そのことが患者さんの『自分は大切な存在である』という意識につながる」。そこに意味があると副院長は言う。「しあわせ」のお相伴にあずかり、満腹気分になる一冊だ。

週刊朝日 2015年10月30日号

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