SNSに巻き起こった「ふてほど」フィーバーは、お茶の間の中心にテレビがあった時代、食卓や翌日の学校などでテレビ番組の話題が語り合われるさまに似ていた。これほどまでに「ふてほど」が話題になる理由を、中村氏は純粋に「面白いから」と話す。
画面に伝わる覚悟と誠実さ
「ドラマに“こうしたらネットが反応するだろう”“最後までこの謎で引っ張ろう”などといった“あざとさ”が少しでも見えてしまうと、見る側はとたんにしらけてしまいます。
そうした小手先のテクニックではなく、作り手が心から“面白い”と思うモノを時間と労力をかけて真摯に作り上げ、批判覚悟で視聴者である私たちに懸命に届けようとしてくれる。
画面から伝わってくるこの“覚悟”と“誠実さ”が『ふてほど』の面白さにつながっているのではないでしょうか」
作り手の熱量が伝わる仕掛けといえば、「実名登場」もそのひとつだろう。市郎や純子の会話の中で「実名」だけが登場するものだ。
三原じゅん子(昭和は三原順子)、八嶋智人(のちに本人出演)、秋元康、萩本欽一、板東英二、小泉今日子(ポスターに始まり、のちに本人出演)といったタレントや文化人の実名が登場した。
そんな実名登場に中村氏は「これはもう宮藤さんの茶目っ気というか、遊び心のなせるワザ」と話す。なかでも注目は小泉今日子だという。
「第8話に小泉今日子さんがゲスト出演したのも、両者の間の揺るぎない信頼関係がうかがえますし、それだけ宮藤さんが脚本家として信用されていることに他ならないでしょう」
実名がドラマに果たす役割は大きい、と中村氏は話す。
「なんとなく似ているキャラや名前を登場させて匂わせるのではなく、その時代のアイコンでもある人物を実名で登場させることによるインパクトは大きいです。
それぞれがその人に対して思い描くイメージや、なんとなく感じていたこととドラマでの扱いが見事にハマった場合、大きな共感や感動、笑いを呼ぶことにもつながります。
個人的には第4話のカラオケで、市郎が秋元康について『地獄に落ちるぜ!』と言うシーンに腹を抱えて笑いました」