その差は政権交代の有無にも表れている。近年は10年に1度は政権交代が起きている韓国や台湾と異なり、日本では自民党以外の政党が政権を担ったのは1993〜94年の細川、羽田内閣と、2009〜12年の民主党政権のみ。とりわけ民主党政権が崩壊して以降、日本では政権交代をネガティブに捉える傾向も否定できないが、政権が変わることで「社会が変わる」可能性を実感できる社会と、そうでない社会とでは閉塞感の度合いが全く異なる、と瀬地山さんは唱える。

「政権交代が起きるということは政治運動や社会運動が実を結びやすい、ということです。これはとりわけ、若者の政治参加意識を高める重要な要素になります」

民主主義の基盤は、政策には合意できなくても選挙結果には従うという、意思決定システムに対する信用で成り立っている。だから、その意思決定システムそのものに対して疑義が突きつけられると民主主義の根幹が揺らぐ。それが起きているのが米国の現状と瀬地山さんは指摘する。

「大統領選の結果は嘘だ、というトランプ氏の言動がまさにそう。トランプ氏が共和党の大統領選候補になるということは、その言動が少なからぬ有権者に受け入れられていることを示しており、こうした米国の実情は民主主義の危機そのものです」

これに対し、韓国や台湾では、政権交代が起きても選挙システムそのものへの疑義や不安を抱く有権者はほとんどいない。そう考えれば、米国よりも安定した民主主義が機能しているとも言えそうだ。

 冷戦の最前線に置かれ、戒厳令が敷かれるなど強権的な政権が続いた韓国や台湾の政治が大きく動いたのはほんの数十年前。台湾では2000年の総統選挙で野党・民進党の陳水扁(チェンショイピエン)氏が当選し、半世紀にわたる国民党支配の歴史に終止符が打たれて以降、民進党と国民党の政権交代が繰り返されるようになった。韓国でも長年の民主化運動を経て、1987年の民主化後は保守系と進歩(革新)系の間で政権交代が続いている。

「韓国や台湾ではこうした20世紀末の変化が大きく作用し、政権与党だけでなく野党側も緊張感が保たれるようになり、安定した民主主義を築く土台になっています」

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