総統選の投票締め切り後、民衆党の集会に参加する支持者ら=2024年1月13日、台湾・新北市

 日本がお手本にしてきた「米国の民主主義」が心もとない。一方で注目したいのは、台湾や韓国といった東アジアの民主主義。現状はどうなっているのか。AERA2024年4月1日号より。

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 台湾の地方都市をつなぐ路線バスの車内。沿線に病院が点在し、腕を吊った人や頭に包帯を巻いた人も乗ってくる。少しでもハンディがありそうな人と乗り合わせると、すかさず座っている人が腰を浮かせ、席を譲ろうとする。短く押し問答をして、譲られたり、遠慮したり。3月中旬、台湾在住6年の日本人男性(50代)がバスに乗っていて目にした光景だ。いす取りゲームならぬ、「いす取らせ」ゲームのようだったという。

「多民族・多言語社会の台湾はそもそもダイバーシティーと親和性が高い」と台湾社会の印象を語る男性。都市と地方の別なく、目線を相手に近づけることに慣れた、フラットな人間関係が台湾の民主主義の土台になっているように感じられるという。

 台湾の「民度の高さ」はジェンダー政策にも表れている。

「日本がまずお手本にすべきは台湾」と話すのは、東アジアのジェンダー政策に詳しい東京大学の瀬地山角教授だ。

トップクラスの台湾

 世界経済フォーラムの算出法に基づき台湾が独自に発表している「ジェンダーギャップ指数」で、台湾は常にアジアでトップクラスをキープ。2019年にアジアで初めて同性婚を認めたことでも知られる。

 ではなぜ、台湾はこうした先進的な政策推進や社会体制を実現できているのか。瀬地山さんは背景の一つに台湾の「国際的地位の不安定さ」があると見る。台湾を「国家」と承認し、外交関係を保つ国は現在12カ国しかない。背景には中国の外交圧力がある。

「このことは台湾にとって存立にかかわる問題です。国際社会で孤立しないためには、中国とは違って普遍的な人権感覚や民主主義がしっかり守られている国・地域だというアピールを積極的に行うことが、政治的立場を超えて必要だと認識されているのだと思います」

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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