女性は、西尾さんから「子育ては大変ね」と共感してもらえるだけで気持ちが楽になり、西尾さんの「もがいたトーク」を聞くと安心すると笑い、こう続ける。

「1週間に1度来ていただけるので、来週のこの日には来てくれるからそれまで耐え忍ぼう、頑張ろうと思い、精神的な支えがすごく大きいです」

 西尾さんは会社員として働いていたが、母親の介護を機に退職。社会と繋がり自分にできることはないかと思い、2年前からホームビジターとして活動する。訪問先では母親の話を聞き、子どもと遊ぶことが「楽しい」と笑顔で言う。

 ホームスタート・わこうのオーガナイザー(調整役)で、ホームスタート・ジャパンの森田圭子代表理事は、ホームスタートの特徴は「傾聴」と「協働」にあるという。

「育児に悩む親の話し相手になって一緒におしゃべりしたり、家事や育児をしたり、公園に遊びに出かけたり、友だちと一緒にいるように過ごします」

 ホームスタート・わこうは09年に発足。これまで360家庭に2360回訪問した。利用者はワンオペ育児で子育てしたり、1人目の子を育てたり、多子多胎児の家庭や外国籍、ひとり親家庭が多い。森田代表理事は言う。

「私たちの活動の一番の目的は、子育て家庭の孤立感の解消です。核家族化が進みコミュニティーも希薄になり、子育ては孤立しがちで不安やストレスから虐待に至るような悪循環につながることがあります。親が少しでも子育てに余裕ができ、孤立感を解消することが、虐待の防止に繋がると思います」

 繋がる先はいくつあってもいい。社会全体であらゆる資源を投入し、孤立する親に支援の手を差し伸べ、救えるはずの命を救わなければいけない。(編集部・野村昌二)

AERA 2024年4月1日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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