ホームスタートを利用する埼玉県和光市の女性(左)と息子、ホームビジターの西尾順子さん。「めちゃくちゃ助かります」と女性(撮影/関口達朗)
この記事の写真をすべて見る

 子どもへの虐待が相次いでいる。子育てに苦しむ親への支援が重要だが、専門家は「虐待が発生した後で支援を開始するのは困難」と指摘する。そこで重要なのは、周産期から支援する「予防的支援」だ。その一つとして、注目されている「ホームスタート」を取材した。AERA 2024年4月1日号より。

*  *  *

 児童虐待防止に関わる研修と研究機関「子どもの虹情報研修センター」(横浜市)の増沢高(たかし)副センター長は、虐待が発生した後で家庭に介入し、支援を開始することは非常に困難だと指摘する。

「支援には相手との信頼関係が基本となります。しかし、児相が対応する虐待相談件数が増え続ける中、児相が介入するのはどうしても虐待が重くなったケースが優先されます。虐待がひどくなった時点で介入し支援しようとしても、不信感や被害感などからそれを拒む親も少なくなく、信頼関係を築いていくのは大変な作業となります」

 そこで提唱するのが、「予防的支援」だ。それも早期からの支援が必要で、「周産期から行うことが重要」と強調する。なぜか。

「例えば、21年度に虐待を受け死亡した子どもは74人いて、そのうち『0歳』での死亡が圧倒的に多く24人いました。加害者の母親は予期しない妊娠や計画していない妊娠をしたり、産婦人科の健診を受けていないなどの問題が指摘されています。婚姻関係にない男性や不倫関係にある相手の子どもだったりして、誰にも相談できず出産し、出産後も誰からも助けを得られなくて行き詰まり、暴力やネグレクトで死なせることになったと考えられます」

 そのために、保健師や児童福祉司ら支援者が周産期からリスクを抱えた妊産婦と繋がり、産婦人科や助産師と連携して支援を開始することが大切となる。周産期に構築された繋がりが継続していれば、子育てに悩んだりした時もその関係を頼りに相談に訪れ、適切なケアにつながり虐待の発生を予防できる可能性がぐっと高まる、という。

 東京都は24年度から、25歳以下の初産女性を妊娠中から支援する事業を本格的にスタートさせる。妊娠中から1人の担当者が出産後1年経過するまで、妊婦の要望や不安などを聞き、主に生活面をサポートする。このプロジェクトの立ち上げ委員の一人でもある、増沢副センター長は言う。

「周産期から関係性をつくる予防的支援の一つのモデルです。全国にも広がってほしい」

 さらに、「予防的支援」の取り組みとして「逆境的な養育環境で暮らす子どもを見逃さないことも重要」と言う。

次のページ