「WBC2023メモリアルフォトブック」。「速報性」の点からすると新聞や通信社の方が速い。ネットはもっと速い。ムックならではの勝ち目を考えた時、「+保存性」にたどり着いた(撮影/写真映像部・和仁貢介)

WBCムックがヒット

「大谷君を好きじゃない人なんていないでしょ」

 東京23区在住の50代女性はきっぱり。野球に関心はなく、選手名すらろくに知らなかったが、何となく観始めたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で大谷選手の笑顔に撃ち抜かれた。ページをめくるたび胸アツになるのが、「WBC2023メモリアルフォトブック」(世界文化社)。2023年3月27日に発売されたこのムック本、WBC開催中の3月10日にAmazonで情報解禁となったのだが、勝ち進むにつれ予約注文数がどんどん伸び、発売前から重版を何度も繰り返した。結果、発売日にはすでに5刷重版決定、推計9万部突破、3カ月で9刷累計23万部を突破した。

「優勝の感動に最初に寄り添えたのが大きかったのでは」

 こう言うのは、担当編集者の大森春樹さん。紙の本が売れないと言われる今の時代でヒットを打ち出せたのは、優勝から5日後の発売という「スピード」。そして、1次ラウンドから決勝戦までの記録を網羅し、さらに全47試合の投打成績付きの試合結果、注目8チームの顔写真付き選手名鑑掲載という「永久保存したくなるつくり」が当たったからと見ている。

孫へのプレゼントに

「その前の東京五輪、サッカーW杯2022で同様のムックを作り、手応えを感じた。その時の経験が生かされました。ただ、顔写真付きで全試合結果を掲載、かつスピーディーというのは実に大変。営業のトップに『次はWBCだね』と言われた時は本気ですか、と思いましたね(笑)」

 みんなのツボにハマるシーン、心動かされるシーンはどこか。試合を見つつリアルタイム検索のアプリをチェックした。

「準々決勝のイタリア戦で大谷選手がバントヒットし、ほかの選手が本気になったシーン。スクロールが追いつかないほど投稿が相次ぎ、ネット上が大騒ぎで、ここの写真は絶対に使おうとすぐに決めました」

 ガチの野球ファンなら公式本や専門誌を買うだろう。一方、WBCで大谷選手のファンになった層なら、テレビで見覚えのある写真が掲載されているものを手に取るに違いない。

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