しかし、私たちは未来を予測することはできません。予測できない未来に対してどのように手を打っていけばよいのでしょうか。この予測できない未来への対応に関しても、ドラッカーの考え方が参考になります。

【ドラッカーのヒント】

未来について知っていること

 ドラッカーは、私たち人類は未来について次の2つのことしか知らないと言います。

1.未来を知ることはできない。

2.未来は、今日存在しているものや、今日予測しているものとは違う。

 しかし、同時にドラッカーは、この2つの公理は次のような極めて重大な2つの意味を持つと言います。

1.今日の行動の基礎に、未来に発生する事象の予測を据えても無駄である。せいぜい望みうることは、すでに発生してしまった事象の未来における影響を見通すことだけである。

2.未来は今日とは違うものであり、かつ予測のできないものであるがゆえに、逆に予測せざることや予期せざることを起こさせることが可能である。

『創造する経営者』P・F・ドラッカー著、上田惇生訳(ダイヤモンド社)

 私は、ドラッカーが極めて重大な意味を持つという上の2つの内の1番目の文章を読んで、そもそも「予測」と「見通す」は何が違うのだろうかと思いました。しかし、原書に戻ってこの2つの単語を比較すると意味合いは全く異なるものでした。

「予測」は原書では“Prediction”で、「見通す」は“Anticipate”です。“Prediction”はPre(before)+diction(declare)ですから「先に言う」、“Anticipate”はAnti(before)+cipate(capture)ですから「先に取る」ということです。

 つまり、未来のことを先に言うことはできないが、すでに起こっていることを先取りして手を打つことは可能だということなのです。

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未来を予測することはできない