「家事なんて誰にでもできる」と思っていた津麦が、織野家の人々と関わりながら、この家族のためにできることは何かと模索していく。津麦が歩み寄ることで、家事代行に抵抗感を示していた朔也も、問題だらけに見えた子供たちも、少しずつ変わり始める。そして、母親を亡くした寂しさを分かち合っていく。そんな織野家を支えるのは、津麦の作る料理だ。その描写がまた素晴らしい。食べる人のことを考えて作られる津麦の食事は、思いやりがたっぷり込められていて、実に美味しそうだ。彩り豊かで食欲をそそる。誰かのために食事を作ること、一緒に食べることの大切さを教えてくれる。
家庭というものは、外からでは見えない。その中で、みんなが四苦八苦しながら家事をしていると気付かされる。家事とは、生活を営むこと。つまりは、生きるということなのだ。
そして、津麦自身も新しい人生の一歩を踏み出そうとする。それは、自分の夢や過去と真剣に向き合うことであった。家事ばかりして自分をあまり見てくれなかった母親への感情にも気付く。本当の意味で、自立へ向かって歩み始める。
相談員の安富さんは、重要なキーパーソンだろう。「フッフッフッ」と笑う声が特徴的な、津麦の悩みや愚痴を受け止めてくれる懐の深い人物だ。しかし、決してポンと答えをくれることはない。津麦が自分の手で、足で、辿り着こうとするのを温かく見守り、導いてくれる。安富さんの存在に、読者も救われることだろう。ただ、誰にでも過去はある。それは彼も例外ではなく、苦しいことを乗り越えてきたからこそ、今の安富さんがいるのだ。